BIG FISH
邦題 | ビッグ・フィッシュ | |
レーベル | COLUMBIA TRISTAR HOME ENTERTAINMENT | |
制作年度 | 2003年 | |
上演時間 | 125分 | |
監督 | ティム・バートン | |
出演 | ユワン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラウドアップ | |
画面 | 1.85:1/アナモルフィック | |
音声 | DOLBY DIGITAL 5.1ch 英語 / DOLBY DIGITAL 2.0ch フランス語 | |
字幕 | 英語、フランス語 |
あらすじ
ウィルは自分の父エドワードが作り話を子供の頃から話し続けているのにうんざりしていた。ウィルが結婚するときに彼の妻になる人にまでその作り話を続けるものだからウィルは怒ってしまい、その後親子の関係は断絶していた。3 年後そんなウィルの元に「父倒れる」という連絡が入る。妻と一緒に実家に帰るウィル。しかし相変わらず作り話を続ける父に反発をするものの父のことを調べて行くうちに父の本当の自分に対する想いを知ることとなる…。
レビュー
ハリウッドの中でももっとも独創的でかつヒット作を飛ばし続けている鬼才ティム・バートンのこれまでの集大成と言ってもいい作品がこの「ビッグ・フィッシュ」です。
基本ストーリーは父親であるエドワードの体験したファンタジーな出来事を中心に描かれていきます。ですから一見するとファンタジー映画のように見えるのですが、これまでのティム・バートン映画とは一線を画している点が見受けられます。それは現実の世界です。そしてその現実の世界を代表するのが息子のウィルです。
ウィルは父親の語るファンタジーの世界を拒絶します。もちろん子供の頃なら受け入れていたでしょうが大人になり、家庭を持つようになればいつまでも現実の世界を語らない父親に腹を立て、拒絶をしても当然と思えます。しかし、父親が倒れて父の過去を辿るうちに父のファンタジーの世界は作り話でないことを次第に受け止めて行きます。正確には現実に起こったことをファンタジー風に話しているのだということに気付き始めるのです。そしてラスト近くのウィルの出生時の現実の話と父親の語るファンタジーの話の差を知るに至って、父親がどんなに自分に愛情を注いでいたか、何でそういうファンタジー風の話をずっと息子に語っていたかをちゃんと理解するようになります。だから父親のエドワードが死ぬ直前、ウィルは父が生前ずっと話していた自分の生涯の終わりを父親に語りかけて見取っていくのです。そしてウィルは自分の子供たちにも同じことをするようになっていくのです。
では何でエドワードはファンタジーの話をし続けたのでしょうか。それは彼の見てきた現実があまりに過酷だったからと想像できます。エドワードが途中 2 度ほど奇妙な町に訪れる場面があります。その町の住人たちはみな裸足でいました。そしてエドワードが最後に息を引き取るときのファンタジーの世界でもエドワードは裸足になりました。あの町の存在は実は死後の世界だったのではないかというのが僕の考え方です。つまりエドワードは 2 度死の世界を彷徨っていた、と見て取ることが出来ます。運命のいたずらか彼はその後現実の世界に戻ってきますが、それも彼が体験した過酷な現実の一つではないかと思われます。過酷な現実を見てきているから子供たちにそんなひどい世界を見せられない、そんな親の愛情がファンタジーな作り話となって息子に語り続ける結果になってしまったのではないでしょうか。
冒頭でこの作品がティム・バートン監督の集大成だという書き方をしました。一つにはこれまでの作品と同じく社会からはみ出したものたちに対する愛情が全編にあふれているということが挙げられます。本人自身がこれまで世間から疎外感を感じ続けていたとインタビュー等でも語っていることや、「シザーハンズ」、「バットマン・リターンズ」でのフリークスに対する過剰ともいえる感情移入度を考えると今作もかつてほどではないにしろ、その傾向は程度の差はあれ見られると思います。その一方でようやく現実の世界を受け入れている様子も伺えます。それはティム・バートン自身がようやく世間と何とか折り合いを付けていく方法論を身に付けたのではないかと思います。
また、映像の雰囲気や演出が集大成だともいえます。まるで過去の彼の作品で見たかのようなシーンが度々登場したり、脇役キャラクターに過去の作品に出演した俳優が出ていたりするのがそういう印象を覚えます。個人的にはダニー・デビート扮するサーカス団の団長を見ていると「バットマン・リターンズ」のペンギンを思い出してしまいましたが。
ラストのエドワードの葬儀に出てくるファンタジーの世界の登場人物たちの出現は現実なのか、息子のウィルが受け入れたファンタジーの世界なのか少々悩むところですが、どちらに解釈してもいいようにも思います。
もう一つ興味深いのはエドワードの奥さんにしろ、ウィルの奥さんにしろ、エドワードの話を無条件に受け入れている点です。特にお腹の中に子供のいるウィルの奥さんがエドワードの話を最初に聞いてあげて受け止めているのには不思議な感じがします。これは女性だからそういう話を受け止められる余裕があるのか、別の理由なのか、少々考えてしまうところです。
映像は現実の世界は普通の色彩に思えますが、ファンタジーの世界だとシーンによって色々違いがあるようです。極端に原色を強調したかと思えばダークな色彩を描き出す。そういったところでも集大成という言葉を当てはめることが出来ると思います。音響のデザインはかなり秀逸でサラウンド感が抜群です。また、映画の雰囲気に寄り添うようにティム・バートンの盟友であるダニー・エルフマンの奏でるサウンドトラックもとても優しげになっています。これは少し意外にも思えます。
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