SEABISCUIT
邦題 | シービスケット | |
レーベル | UNIVERSAL STUDIOS HOME VIDEO | |
制作年度 | 2003年 | |
上演時間 | 141分 | |
監督 | ゲイリー・ロス | |
出演 | トビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパー | |
画面 | 2.35:1/アナモルフィック | |
音声 | DOLBY DIGITAL 5.1ch 英語 | |
字幕 | 英語、フランス語、スペイン語 |
あらすじ
1930 年代のアメリカ。世界大恐慌の後を受け、人々は将来への希望を失っていた。自動車ディーラーのチャールズ・ハワードはかろうじて恐慌を乗り越えたものの一人息子を事故で失いそのために妻とも別れ失意のどん底にいた。また、馬の調教師であるトム・スミスは時代の進歩に取り残されつつあり、若きレッド・ポラードは生活を維持できなくなったため両親と生き別れることとなり、競馬のジョッキーとしてもうまくいかずに自暴自虐の人生を送っていた。その 3 人が牝馬とはとても言えない気性の荒い「シービスケット」と出会い、勝利を物にしていくことで、次第に人生に希望を持ち始める。しかし、当時の血統馬である「ウォー・アドミナル」との対決を目前にして、レッドは歩くことすらおぼつかない大怪我を負ってしまい、「シービスケット」自身も「ウォー・アドミナル」との対決の後のレースで競走馬として致命的な怪我を負ってしまう。再び絶望の淵に立たされる彼らだったが、レッドは諦めなかった…。
レビュー
1930 年代を中心に活躍した競走馬「シービスケット」と「シービスケット」を取り巻く人々を描いた実話の映画化がこの作品です。当然実話の映画化と言っても映画としての演出方法がありますので史実そのままというわけではないようです。その辺に興味がある方は、「シービスケット-あるアメリカ競走馬の伝説」というドキュメンタリー本がありますのでそちらと読み比べてみるのも興味深いかもしれません。
作品としてはタイトルこそ「シービスケット」と競走馬をメインタイトルにしておりますが、実際のところ、主人公はあらすじに書き込んだ 3 人の登場人物、つまりチャールズ・ハワード、トム・スミス、そしてレッド・ポラードの人生に対する絶望とそこからの再生がメインテーマになっていて、それを結びつける要素として「シービスケット」が存在しているように思えます。
まず、チャールズ・ハワードについて考察してみましょう。彼は初め自転車屋さんから事業を始め、ふとした偶然から自動車のディーラーとなり、資産家になって行きます。しかし、1929 年より起こった世界大恐慌により、事業は危機的状況を迎えます。彼の手腕のお陰でかろうじて事業は継続できたものの、不幸な自動車事故により大切な一人息子を失い、その結果家庭崩壊まで招いてしまいます。ここまでが彼の人生に対する絶望であり、どん底ではないかと思われます。その後アメリカとメキシコの国境沿いの町でマルセアという女性と出会い、彼女と人生をやり直すところからが彼の人生の再生が始まったのではないかと思います。ところが彼自身はその後も陽気な振りをしながらその実まだ完全に再生しきっていなかったのではないかと思います。それは一人息子を失ったショックがいつまでも心のしこりになっていたようで、若きレッド・ポラードに対する彼の態度を見ていると、自分の失ってしまった息子を彼に重ね合わせていたのかもしれません。だからレッドが大怪我をしたときに一人でずっと病院の待ち合わせ室にい続け、そして、一人息子が遊んでいたおもちゃを時折取り出し、レッドが再びレースに出る、と宣言したときにまた息子を失う恐れから大反対をしたのではないかと思います。ジェフ・ブリッジスの名演により、陽気な資産家、でも内面に葛藤を抱えているというハワードを印象付けることに成功していると思います。
次はトム・スミスです。物語の冒頭で自動車が次第に世の中に普及していくのに対比して大草原を馬で疾走する彼の姿は、間違いなく時代というものに取り残されてしまった人物として描かれています。その後も平原の一部に杭と鉄条網が張られ、馬で疾走することすら出来なくなってしまったシーンではその印象を強くしていきます。それが自動車ディーラーから馬主として事業を転換しようとするハワードと出会ったことから時代に取り残されていた彼に再び人生のチャンスが訪れる、という印象を受けます。そしてレッドと、「シービスケット」の出会い。それが彼の再生を決定付けたと思います。その後は口やかましく仏頂面をしながらも常に適切なアドバイスをハワードにもレッドにも行なっていきます。こちらも名優、クリス・クーパーの演技力がトムというキャラクターを輝かせていると思います。
最後はレッド・ポラードです。少年時代は幸せな家庭に育ち、乗馬の得意な少年でいたのに世界大恐慌のあおりを受けてしまい、両親と別れざるを得なくなります。そのときのショックが尾を引いて一時は競馬の騎手になりながらも首になり、賭けボクシングなどをやって右目の視力を失い、自暴自虐な人生を送ってしまいます。しかし、ふとしたことからトムと「シービスケット」に出会ったことで、紆余曲折がありながらも次第に人生の再生を始めます。しかし彼は前述の二人と違って再度人生のどん底に落とされてしまいます。レース前の事故により右足を複雑骨折してしまい、医者から「もう騎手になることは出来ない」とまで宣言されてしまいます。更に彼の再生を促した「シービスケット」もレース中に右前足を骨折してしまいます。彼らはここからもう一度人生の建て直しを図っていきます。徐々に徐々にと。そして最後には、ほとんど両親と言ってもいいハワード夫妻に反発してまでレースへの出馬を決意いたします。最後はレースに勝つシーンが静かに描かれますが、この辺はうまい描き方だなと思います。トビー・マグワイアも前述の二人に負けず芸達者ですのでレッドという若者を絶妙に演じています。
それ以外にもちょっとしたシーンで登場人物の心の動きを表現している場面が多く、じっくり観ていれば、そのよさが分かってくると思います。前述のハワードの息子のおもちゃで遊ぶシーンだとか、レッドの食事の取り方などさりげないのですが、きちんと物語を映像で伝えていますのでストーリーを追うだけでなく、じっくりと映像を観ることをお薦めします。
唯一残念だったのが、レッドのライバルでもあり、友人でもあるジョージ・ウルフとの関係の描き方がちょっと弱いかな、という点で、そこがもう少しきちんと描かれていれば更によかったように思うのですが、多分史実と映画の演出の差で補正しきれなかったのではないかなという気がしています。ちなみにジョージを演じたゲイリー・スティーヴンスは、俳優ではなく、本物の競馬騎手だということです。
物語としてはまじめなドラマですが、ラジオのアナウンサーを演じたウイリアム・H・メイシーがコメディーリリーフとして要所要所で笑いを取ってくれますので、あまり重い作品にはなっていません。観終わった後、さわやかな気分になれる作品だと思います。
画質は鮮やかな色調を出していますが、物語の前半ではソフトフォーカスが多く、後半ではくっきりした画面になっているようです。想像ですが、監督の意図として、登場人物たちの絶望感を表現するのにソフトフォーカスを使い、再生していく過程では割とくっきりの画調にしているように感じます。どちらにしても 1930 年代の物語を意識している為、現代的な色合いではないよう微妙にぼかしていると思われます。サウンドもやはり静かに、かつ自然なサウンドフィールドを再現することで 1930 年代の感じを出しているように思えます。それでもレース中の馬の視点から観たシーンでの音響効果は映像もアングルも手伝ってかなり迫力はあります。
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