THE LAST SAMURAI
邦題 | ラスト サムライ | |
レーベル | WARNER HOME VIDEO | |
制作年度 | 2003年 | |
上演時間 | 154分 | |
監督 | エドワード・ズゥィック | |
出演 | トム・クルーズ、ティモシー・スパル、渡辺謙 | |
画面 | 2.40:1/アナモルフィック | |
音声 | DOLBY DIGITAL 5.1ch 英語、フランス語 | |
字幕 | 英語、フランス語、スペイン語 |
あらすじ
19 世紀も終わりに差し掛かる頃、カスター将軍の下でアメリカ西部でインディアンを征伐し続け、そのことに後悔の念を抱いているネイサン・アルグレンは、日本での明治天皇に対する反逆を行っているカツモトというサムライ一派の征伐を命じられる。日本に到着し、近代兵器の使い方を知らない日本人に兵器の指導をしつつもカツモトの征伐に乗り出すネイサンだがカツモト側の勝利に終わってしまい、ネイサンはカツモトの暮らす村に囚われの身となる。その村で暮らしていくうちに次第にネイサンの心境が変わり、カツモトの言う武士道によって彼は過去の贖罪を果たし始めることになる。そして彼はついにカツモトの側に立って明治政府軍との戦いに身を投じていく。
レビュー
渡辺謙がアカデミー賞の最優秀助演男優賞にノミネートされたことで大きな話題になったハリウッドが描いたサムライ物映画がこの「ラスト サムライ」です。
大抵のハリウッド映画が日本を描くときには勘違いの多いカリカチュアされた作品になっていることが多いですが、この作品はかなり様相が違うように感じられます。もちろん、時代考証などには大きな誤解がおそらく入っているものとは思います。しかし、この作品からは正しい日本の雰囲気が漂ってきているという印象がとても強く感じられます。それは単に登場人物の多くが日本人だからというだけではないと思います。とにかく画面から漂ってくる雰囲気がハリウッド映画なのに日本なのです。サウンドトラックからしてそういう雰囲気が漂ってきます。作曲者がハリウッド映画の大御所ハンス・ジマーなのにも関わらず。
そしてこの映画は主演がトム・クルーズとなっていますが、トム・クルーズのスター映画ではありません。むしろ、トム・クルーズは物語の語り部、あるいは狂言回しという印象を強く受けます。主演は渡辺謙や真田広之、映画監督の原田眞人、そして小雪といった日本人たちであり、群像劇という印象を強く受けます。
またこの作品から感じることは明治時代という時代の波を描くことによって今を描こうとしていたように感じられます。
まず「日本の雰囲気が漂ってくる」という点についてですが、画面の雰囲気が間違いなく日本映画の雰囲気のように感じられるということです。ハリウッド映画ですから色調はくっきりはっきりですし、おそらくクライマックスの戦闘シーンなどは日本ではないと思うのですが、それでも日本を彷彿とさせる家屋の雰囲気、何となく霞のかかった空気感、雨のシーン、そして桜の色合いと意味合いが日本の雰囲気をとても漂わせているのです。雨のシーンはまるで黒澤明監督の名作「七人の侍」のクライマックスの合戦シーンを思い起こされるものがあります。雨のシーンが青みが強く、モノクロっぽい雰囲気をたたえていることも影響しているのではないかという気がします。
もう一つの理由としてはやはり日本人が大挙して役を演じているということと、物語の骨格が日本国の内乱をテーマにしているところにあると思います。何となくですが西郷隆盛の乱と印象がかぶって見えてしまうところが日本人としての性なのですが、出て来るハリウッドの俳優たちは基本的に傍観者だというように見えます。それも日本の雰囲気が漂ってくる理由のひとつに思います。
ハリウッドの俳優たちが傍観者に見えてしまうためにトム・クルーズも主役でありながら彼のスター映画とはなっていません。彼は物語の語り部として機能しています。実質の主役は前述のように渡辺謙や真田広之、原田眞人、小雪といった人物たちだと思います。明治天皇を演じた中村七之助も重要なポジションにいますが、出番が少ないために主役というのには少々難はあると思います。
語り部であるトム・クルーズを通して観客は表面的には武士道について、時代の波に乗り遅れた者と時代に乗り先に進もうとする者を描いていますが、時代の波に乗り遅れた者、つまり武士たちがダメかというとその逆で、時代の波に乗った者たちが物事の真実が見えず、日本という国を崩壊に導いているような雰囲気を漂わせています。オオムラを演じた原田眞人は映画監督の割には実にその辺をうまく漂わせているような気がします。カツモトを演じた渡辺謙、ウジオを演じた真田広之たちは時代の流れに逆らいつつも物事の真実が見えているという感じを受けます。そしてそれでも時代の流れに取り残されいつかは滅びていく人種なのだと理解しているようです。
そうした象徴が桜なのではないかと思います。まるで都市伝説のようなのですが、桜の下には死体がいてその人の怨念を吸い取って妖しい美しさをたたえているという話もあるくらいに、日本人は桜に対して特別な思い入れがあるといえます。太平洋戦争時も確か桜のように散っていくことを美学としていたという話を聞いたことがありますが、この作品でもそういう印象が強く感じられます。武士道とは実は自分に出来ることを精一杯行なってそして散っていくという意味に取れます。人生観で行ったら正しく生きて死んでいくということが武士道の精神なのだと考えます。
最後に明治時代を描くことによって今を描こうとしたということについて述べたいと思います。当然江戸時代の末期から明治時代の日本の変革はとんでもないくらいに大きなことだったと思います。それは今のグローバリゼーション並み、むしろそれ以上の衝撃だったのではないかと考えます。そういう観点で考えたときに時代の流れに取り残されながらも自分の信念を持って正しく生きて死んでいく者たちと、時代の流れに乗ってしまい信念も何もなくそれを受け入れてしまう者たち、どちらが人生としてすばらしい生き方だったのかという疑問提起をしているようにも思えます。それをまさかハリウッド映画で行われるとは思いもしなかったですが。もちろん時代の流れに乗った人物たちも信念がないわけではないのですが、あくまで他人からの知識の受け売りでしかないところに注意する必要があります。自分でそれを消化できていないと駄目だということです。
自分の中では当初色物映画のように思っておりましたので予想外の出来のよさにぜひとも鑑賞をお薦めしたい作品の一つに挙げられると思います。
映像についてはこれまで述べてきたように極めて日本の雰囲気の漂う絵作りがされているというだけで十分だと思います。音響は合戦シーンなどで迫力ある効果音を空間に広げていますし、サウンドトラックがまたすばらしい効果を挙げていますので聴き所だと思います。
余談ですが、この作品での評価を受けて渡辺謙は「バットマン・ビギンズ」の悪役に抜擢されることになるのですが、実は大した出番もなく、ただの脇役になってしまったのは残念としか言いようがありません。それと原田監督は僕が好きな、しかし日本の SF 映画ファンの間で酷評を受けまくった「ガンヘッド」を撮った人でもあります。「ガンヘッド」については輸入盤では著作権を無視して勝手にリリースされています。そのうちレビューすると思います。
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