ようこそ映画音響の世界へ(HD/Netflix)
No Image | 原題 | MAKING WAVES:THE ART OF CINEMATIC SOUND |
レーベル | アンプラグド | |
制作年度 | 2019年 | |
上映時間 | 94分 | |
監督 | ミッジ・コスティン | |
出演 | ウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストローム | |
画面 | 1.78:1/SDR | |
音声 | DOLBY DIGITAL 5.1ch 英語 | |
字幕 | 日本語 |
あらすじ
映画の中心的存在を放つ音響効果。しかし、人々は音響効果について軽く見る風潮があった。映画における音響効果は、製作者にとってみれば、映像と並ぶ重要な要素の一つであり、監督や音響編集者によって、映画の一つのパーツとして大切な要素になっている。その映画音響も映画誕生時には存在せず、次第に映像と並んで重要視されるようになっていった。その映画における音響効果について、音響効果担当であるウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストロームが自身の担当した映画を振り返る形で、音響効果について様々なアプローチをおこなった旨の話を行っている。また、音響効果には台詞、環境効果、音楽の三つについて説明をして、どのように映画の音響が制作されるのかを説明している。映画の歴史と共に、音響効果の進歩について語ることで、音響効果が如何なるものか、解説した作品である。
レビュー
映画における音響効果について、映画と音響の歴史や、音響効果における革新的な映画の紹介、音響効果の作り方などを説明しているドキュメンタリー映画が、この「ようこそ映画音響の世界へ」です。劇場公開はされていますが、小規模公開だったようで、興行収入は多くはないです。ただ、批評は好意的な見解が多く、Rotten Tomatoesの批評家評価は97%、観客評価も93%と、極めて高い評価を得ています。
内容は映画の音響効果について語ったものになっていますが、見た感じ、映画のDVDやBlu-rayの特典映像についてくるメイキング映像的内容に近い感じがします。DVDやBlu-rayで語られるメイキングは、その作品個々の資料だけですが、映画業界全体で映画における音響効果について、包括的に語っている内容なのが、この「ようこそ映画音響の世界へ」です。ドキュメンタリーなので、音響効果を生み出す製作者や映画監督へのインタピュー、実際の映画のフッテージなどが効果的に採用され、映画音響について学ぶところが多い内容になっています。
映画の誕生時には音響自体がなかったというのは映画ファンならば知っている内容ですが、映画に音響をつけようとする行為は色々あり、初期の頃はオーケストラが効果音をも含めて映画の音響をリアルタイムで演奏していたというのには、少々驚きの部分があります。現在では、たまに映画を生オーケストラの演奏で上映するイベントが行われていますが、映画の初期で既にそういう行為が行われていたことに、不思議な縁を感じさせるところがあります。
1933年の「キングコング」あたりから、映像と同期する音響効果が登場し、現代まで続く映画の基礎が誕生しますが、初期のトーキー映画では、あまり音響を重要視していなかったというのは、納得できないものがあります。映画会社が街の騒音や動物の鳴き声、自然界の音などのライブラリを持っていて、映画の制作時にはそのライブラリを使い回していたという話には、音響効果を軽く見ている風潮があったと思います。
1970年代に入るまで、映画の音響はモノラル音声が続いていましたが、1960年代には既にレコード文化で2chのステレオ音声が誕生し、ビートルズの登場と共にサラウンドが発展していく様子が語られていて、映画の音響が時代遅れになっていく様子が語られています。それを打破したのが、フランシス・フォード・コッポラやジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグなどの映画監督であり、彼らの作る映画に音響効果製作者として参加したウォルター・マーチ、ベン・バートなどです。彼らは、長い年月をかけて様々な音を街の中から収録し、それらを掛け合わせたり、テープを逆回転させたり、テープを切り貼りしたりしながら、映画の音響効果を作り出していきます。「THX-1138」、「ゴッドファーザー」、「スター・ウォーズ」、「E.T.」、「スター誕生」などの映画では、音響効果が映像を増強する重要な要素として、扱われています。
その後も時代と共に音響効果の重要性は増し、「ジュラシック・パーク」では恐竜の鳴き声を動物の鳴き声を複数掛け合わせて生み出したり、「プライベート・ライアン」での冒頭のノルマンディ上陸作戦では、映像がクローズアップショットなのに対し、音響効果で銃の発砲音を映像の外に鳴らすことで臨場感を得たりと、様々なアプローチが試みられています。音響効果の記録装置も最初はテープレコーダーだったものが次第にシンクラヴィアによるデジタルツールに変わっていくなど、興味深い内容が次々に出てくるので、面白く感じます。
映画の後半は、音響効果の作り方を説明した形になりますが、キャラクターの台詞の加工から、環境音の作り方、オーケストラによる音楽の扱いなど、映画好きにとっては為になる内容が盛り込まれていて、面白いと思います。また、音響効果の制作スタッフは男性ばかりではなく、女性もかなり多く進出していて、彼女たちがいかに音響効果を生み出しているかを説明するシーンは、男女同権の意味合いからも進歩している感があります。
映像はHD/SDRでの収録になっています。メインのシーンはドキュメンタリーで、映画監督、音響効果製作者たちによるインタビューですので、そのシーンにおける画質は良好です。解像度も十分にあり、色乗りもしっかりしています。しかし、音響効果を説明する映画のフッテージは、当然のことながらその映画のマスターによって左右され、画質の良いものから悪いものまで様々に入り混じっています。当然カラー映画もあれば、モノクロ映画もあり、その辺の匙加減が映画の歴史を見ているという意識を持たせてくれます。アスペクト比もその映画に合わせて可変するので、てんでバラバラですが、ドキュメンタリーというスタイルを確立させてくれると思います。音響はDOLBY DIGITAL 5.1chサラウンドで収録されています。音響効果について語ったドキュメンタリーであることを含めて、サラウンド効果は十二分にあり、サラウンドのデモンストレーション映画として見ても面白いものがあると言えます。
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