やちむん「一生売れない心の準備はできてるか」福岡市 TAO
やちむんの映画上映会とミニライブに参加した経緯
僕が、やちむんの「一生売れない心の準備はできてるか」の映画上映会とミニライブに参加するに至った経緯は、Twitterでの佐賀・唐津での上映会とミニライブ開催の告知を見たことに始まる。やちむんというユニットが沖縄をフィールドに活動しているということは、20年前に知ってはいた。当時発刊されていた「好きになっちゃった沖縄マガジン」(双葉社)でやちむんの紹介をしていたからである。やちむんのリーダーである奈須重樹が宮崎県出身で沖縄に移住して、ユニットの活動をしているというところまで知っていた。しかし、沖縄をフィールドにした活動だったこともあり、その楽曲を聴いたことは一度もなかった。2021年で活動30周年を迎えたというが、CDもインディーズなために日本本土での入手は意外と難しく、Apple MusicやiTunes Storeでのデジタル配信も行っていないのも、楽曲に触れることがなかった一因である。
Twitterでやちむんの「一生売れない心の準備はできてるか」の上映会とミニライブが佐賀・唐津で開催されることを知った僕は、ネットでいろいろ調べてみた。すると、2022年10月23日(日)に福岡市でも映画上映会とミニライブが開催されることを知った。福岡では、昼と夜の2回公演だという。映画の内容は、僕が沖縄に旅行に行った際に見学した首里劇場でやちむんが結成25周年のライブを行った際のドキュメンタリーライブ映画であるということであり、首里劇場に関心を寄せていた僕にとっては、興味深い内容の映画上映会とミニライブになりそうだった。また、ライブ映画の監督が1992年に一世を風靡したオムニバス映画「パイナップル・ツアーズ」のエピソードの一つを監督した當間早志であることも関心を寄せた一つである。それで、やちむんの公式ホームページで詳細を確認し、窓口の方に連絡を取り、23日(日)の15時からの回の予約を取ってもらった。
会場は映画館ではなく、カフェ&バーであるTAOという場所だった。天神から少し離れた渡辺通り一丁目に近い場所にあり、当然ながら行ったことはなかった。さて、どう行ったらいいのかと、MacBook Proのマップで調べると、なんと普段乗らない路線バスを使ったほうが乗り換えなしで、地下鉄+路線バスの公共交通機関よりも早く、安く会場に到着できる、とわかった。それで、行きは、路線バスで行くことにした。映画上映会とミニライブの終了時間が読めなかったが、遅くとも18時には終わるだろうと思ったので、帰りは映画上映会とミニライブ終了後にiPhoneで最短のコースを調べて帰ることにした。
TAOまでの道中と、会場の様子
13時に家を出て、路線バスのバス停まで向かった。バスは定刻を2-3分遅れて到着。バス停で待つ人が予想より多かったし、バスの乗車客も多かった。なんとか空席を一席見つけて座り、渡辺通り一丁目まで向かった。バスは座れなくて立っている人も多かった。バスから車窓を眺めようと思ったが、窓にはカーテンが引かれていたので、車窓もほとんど見られなかった。
14時過ぎに渡辺通り一丁目に到着。iPhoneのマップだとすぐそばにTAOがあるとのことだが、建物の3階にひっそりと店を構えていたので、少々迷った。それでも開場時間より早くTAOに到着。すでに受付もしてくれていたので、入場料を払って、別料金のドリンク代を払って生ビールを飲んだ。久しぶりの昼の生ビールは美味しかった。
会場にはやちむんの奈須重樹がすでに来ていて、いくつか会話を交わした後、写真も一緒に撮ってもらった。そして、やちむんのグッズである今回の映画のライブ音源を収録したライブCD-Rも購入。なんか、長崎の上映会の時に他のCDを買い占めた人がいるらしい。残っていたのが、ライブCD-Rとアナログレコードのみだった。ライブCD-Rは映画のライブパートのみを音源化した公式海賊版CD-Rで、手焼きであった。なので、歌詞カードも曲目リストもなし。でも、CD-R2枚組で、2000円というリーズナブルな値段。
映画「一生売れない心の準備はできてるか」上映会
奈須重樹による前説
15時に奈須重樹がスクリーンの前に立ち、「まだドリンクを注文していない人がいるから、5分遅れぐらいで上映を開始する」という話をした。そして、やちむんのメンバーの一人が今、飛行機で福岡に向かっているから、映画上映後、奈須重樹が話を引き伸ばしてメンバーの到着を待ち、それからミニライブを開催するという話もしていた。映画は15時5分からスタートした。用意されていた座席は25名分だったが、参加した人数は7-8名程度とちょっと寂しい観客の入りだった。
「一生売れない心の準備はできてるか」ライブシーンのセットリスト
- 新良幸人による座開き
- ヒッピーと結婚しようよ
- がんばれいぼやーるー
- タコス屋で逢いましょう
- 床屋の孫
- モクマオウのトンネルを抜けて
- 海のひみつ
- 恋とライブと弁当は足りないぐらいが丁度いい
- 台風天国
- フェアウェルソング
- さあふうふう
- アイム ダンディ
- 一生売れない心の準備はできてるか
- リスペクト ミー
- そばとロックの日々
- 恋とライブと弁当は足りないぐらいが丁度いい(アカペラ)
- ストリーキング
- ロード・トゥ・ナミノウエ
映画を見た感想や気づいたこと
この映画は、第14回沖縄国際映画祭の特別上映作品になっていて、上映時間が121分と音楽ライブ映画にしては、かなり長尺である。しかし、内容はかなり面白く、映画に没入する感覚で視聴できた。比較するのはちょっとおこがましいかもしれないが、マーティン・スコセッシ監督が作ったTHE BANDの「THE LAST WALTZ」という音楽映画にも匹敵する面白さかも、とは思った。映画のライブシーンで演奏が終わるごとに、僕を含む観客数名が拍手をしていたのは、不思議な感覚であった。拍手をすることで会場である首里劇場の観客と一体化している感覚である。
映画そのものは、2021年にやちむんがデビュー30周年を迎えたのを記念して、2016年4月にデビュー25周年を記念して首里劇場で開催された記念ライブの模様を収録し、それに奈須重樹への監督である當間早志からのインタビューとで構成されている。映画の中のインタビューで話していた通り、最初は映画にするつもりはなくて、一部の楽曲だけを記録するつもりでいたものの、なぜか監督を含むカメラマン3人がなんとなくライブ全編を記録しており、音声も首里劇場の2階席に設置してあった会場全体を録音するマイクの音声が残っていたので、それを使って121分という映画に仕立て上げるという、結構アバウトというか、インタビュー的にはあり物でまとめ上げているのであるが、見ている方としては、結構しっかりできているという感触はした。
映画は、奈須重樹が2021年に首里劇場を訪れるシーンから始まるが、この映画のもうひとりの主役は、首里劇場なのではないかという気がする。首里劇場は沖縄に現存する最古の劇場であるが、館長である金城政則が2022年4月に急逝し、2022年10月現在は閉館。2023年2月までは建物は残るが、その後はわからないという。この映画の上映会に参加する1週間前に、京都国際映画祭オンラインで「首里劇場ノスタルヂア」という短編ドキュメンタリーを見ているので、より、首里劇場という特別なステージでのライブという印象が強い。また、ライブは2部構成になっていて、途中休憩時間があるのだが、その休憩時間に首里劇場の外で飲食物を売っているパーラーや、それを買い求める観客の姿も映し出され、よりリアルな首里劇場を印象付ける。
映画そのものは、やちむんを知らない人でも映画に没入できるように作られている。やちむんが曲を演奏する前には字幕で楽曲名が出るし、歌詞も字幕で表示されるので、自宅でCDで楽曲を聴いているかのようなリラックスさと利便性で、映画を見ることができた。
やちむんの楽曲を聴いたのは今回初めてであるが、結構ノレる曲が多く、ポップな印象を強く受けた。歌詞はユーモラスな部分が多く、聴いていて楽しい。なぜ、やちむんが活動を継続してきて、一曲の小ヒット以外、全くヒットしないのかが、よくわからない。特に元はっぴいえんどの鈴木茂がプロデュースした楽曲があるにも関わらず、話題にもならなかったのは、不思議である。聴いていると、割と音楽好きにはハマる要素を持ったユニットだと思う。
監督の當間早志は、1992年に一部で話題になったオムニバス映画「パイナップル・ツアーズ」の「爆弾小僧」で監督デビューを果たした人である。「パイナップル・ツアーズ」は結構印象強い作品であったが、その當間早志が監督を務めているだけあって、作品作りは上手い。また、プロデューサーが、前述の「首里劇場ノスタルヂア」の監督を務めた平良竜次なので、沖縄の映画制作の関係者の横のつながりを実感されられるところはあった。ちなみに「パイナップル・ツアーズ」には奈須重樹はスタッフとして参加し、その時の出来事を元に一曲曲を作っている。
映画の中の首里劇場でのライブ開演前のアナウンスで、「公演の録画、録音、写真撮影は一際お断りしていません。逆にどんどんSNSで拡散してください。」というところは、思わず笑ってしまった。最近のスマートフォンやSNSの普及で、ライブの開演前のステージですら写真撮影禁止という風潮が強くなっている中、この映画のできる5年前の状況とはいえ、それらを解禁している様は、やちむんというユニットの置かれている状況が垣間見れていて、もっと話題になりたいのだなという印象を受けた。実際、もっと話題になってもいいユニットだと思う。
映画を見ていて思ったのは、奈須重樹が人生に対して前向きであるのではないか、ということである。やちむんを結成して30年も経過し、ヒット曲がただ一曲のみ、それも沖縄での小ヒットだけという事実に、映画のタイトルではないが「一生売れない心の準備はできてるか」という言葉が奈須重樹に重くのしかかっていると思うのだが、奈須重樹は人生に対して重く受け取らず、軽やかに生きているような気がしてくる。奈須重樹に限らず、沖縄の人は意外と前向きな人生を送っているのではないかという思いを抱いた。この辺は、沖縄以外の日本で人生を重く受け止めている人たちに、強い影響力を与えうる要素になっているのではないかと思う。「一生売れない心の準備はできてるか」という楽曲そのものが、それをテーマにしている感がある。
映画のラストは、ライブ映像ではなく、新曲「ストリーキング」のスタジオ録音と、2021年5月から始めた那覇の国際通りでの流しのライブについての奈須重樹へのインタビューではあるが、この辺も前述の人生についての前向きさが伝わってくるところはあると思う。デビュー30周年の記念ライブは、新型コロナウイルスの影響で奈須重樹が意欲を失っていたために行えず、結果としてこの映画の制作になったのだが、逆にそれは沖縄に関心を寄せている人、例えば僕のような人にもやちむんを知るきっかけになっていると思う。
映画は、TAOというカフェ&バーでの上映なので、BD-Rでの上映になり、HD画質での上映である。カメラも映画撮影用ではなく、単なる記録用のカメラであるので、シーンによってはばらつきはあるが、画質自体は意外と良好である。音声も記録用の音声をマスタリングしているのだが、まずまず聴ける音質になっている。TAOに設置されたスピーカーの質が良かったのかもしれないが、自分の家でホームシアターで映画を見ているような雰囲気はあった。
「やちむん」ミニライブ
やちむんミニライブセットリスト
- そばとロックの日々
- やっぱり蜜が好き
- さあふうふう
ミニライブ前の説明
映画終了後に奈須重樹が映画の成立について説明をした。映画の感想等でも書いたが、映画の成立についての説明は、かなり面白い。首里劇場の現状についての説明もあり、興味深かった。
質問コーナーがあったので、僕は質問ではなく、映画の感想を述べさせていただいた。観客の一人の女性の方が質問をして、「普段どこでライブをしているのか?」と質問をする。それに対して、奈須重樹は「国際通りの居酒屋で流しのライブと、月一でライブハウスでライブをしている」と回答した。その女性は続いて「ライブの金額はいくらぐらい?」と質問をしていたが、それに対しては「後で別途調整しましょう」というところで和やかに終わった。
映画上映会は10月20日に佐世保、21日に長崎、22日に唐津、23日が福岡で開催されたが、20日の佐世保の打ち上げから奈須重樹は酒を飲み過ぎてしまい、喉が枯れていると告白。ミニライブの声と映画の声が違うけれど、という話をしていた。
20日の福岡の上映会に間に合うように、やちむんのメンバーの一人である育がTAOにミニライブの前に到着した。育という名前だと男性だか女性だかわからないが、この人は女性の方。ソロアルバムを8月に出したとのことで、CDを買ってくれると嬉しいと話していた。
ミニライブは、3曲を演奏。「そばとロックの日々」だけは、観客からのリクエストで演奏した。楽器は奈須重樹と育のボーカルに、アコースティックギター、ハーモニカだけであったが、それだけでも楽しいミニライブになった。「やっぱり蜜が好き」は映画では少ししか流れなかったので、貴重な演奏になった。
ミニライブの終了とともに、映画上映会とミニライブは終了し、CD-Rとアナログレコードの販促になった。CD-Rやアナログレコードを買った人には、奈須重樹と育のサインももらえた。
上映会とミニライブ終了後のTAOからの帰宅
映画上映会とミニライブが終了し、CD-RにサインをもらってTAOを後にしたのが、17時40分。iPhoneのマップで最短コースを調べて、バス停に向かったら、iPhoneのマップとは違う、行きと同じコースを走る路線バスがダイヤの乱れで予定より遅れていたので、タイミングよく乗ることができた。それで、帰りも乗り換えなしで一直線に自宅に戻れる路線バスに乗り、18:40には自宅に着いた。
やちむんのライブを見るのは初めてであったが、とても楽しい時間を過ごせたと思う。もちろん生が一番ではあるが、映画という形態でのライブも悪くないし、映画終了後のミニライブも良かった。もっとやちむんが人気出ればいいのに、とは思った。
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