パイナップル・ツアーズ(Amazon Prime Video)
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原題 | パイナップル・ツアーズ |
レーベル | スコブル工房 | |
制作年度 | 1992年 | |
上映時間 | 118分 | |
監督 | 真喜屋力、中江裕司、當間早志 | |
出演 | 兼島麗子、新良幸人、富田めぐみ | |
画面 | 1.66:1/SDR | |
音声 | DOLBY DIGITAL 2.0ch 日本語、沖縄方言 | |
字幕 | 日本語 |
あらすじ
麗子おばさん
沖縄の離島、具良間島にオペラ歌手の麗子が娘の由美子と共に帰ってきた。麗子は原因が不明の声が出ない病気を患っており、その治療のために島のユタを頼って帰ってきたのだった。ユタの宣託によれば、アメリカ軍が戦争時に落とした不発弾が麗子の声が出ない原因であり、不発弾を見つければ、声が出るようになるとのことだった。娘の由美子は母のことを思って不発弾のことを島のオジィたちに聞くが、はっきりしたことはわからなかった。そんな中、カマドおばぁは、麗子に歌を聞かせて欲しいと頼み込み、麗子は声が出ないまま歌を歌うことになる。
春子とヒデヨシ
麗子の声が出なくなって数年後、ナイチャーのヒデヨシという若者が具良間島にやってきた。ヒデヨシは自転車で島内の郵便物や荷物を運ぶ仕事を請け負っていた。そんなヒデヨシに対して島のオジィたちは、島の娘の一人である春子と結ばれるようけしかける。ヒデヨシも最初は否定していたものの、結局春子に夜這いをかけてしまい、春子と結ばれてしまう。そして、春子は子供を身ごもってしまう。それを受けて、島中で春子とヒデヨシの結婚式を盛り上げるが、ヒデヨシはその状況から逃れようと、態度を逃げの一手で打とうとする。
爆弾小僧
春子とヒデヨシの結婚式からさらに数年後、具良間島に本土資本の会社に勤めるスギモトという女性がやってくる。具良間島にリゾートホテルを作ろうと比嘉という男が数年前から動いていたが、彼は使い物にならないと本土資本の会社の経営陣は考え、スギモトを送り込んで、具良間島にリゾートホテルを建設しようと企んでいた。そのためには、アメリカ軍の落とした不発弾を見つける必要があった。スギモトは不発弾を見つけた者には1億円の懸賞金を渡すと公約し、不発弾を見つける作業を行う。それを聞いた島のパンクバンド、爆弾小僧のアキラと夏子は、パンクバンドで世界を席巻しようとロンドンに行くために1億円の懸賞金に目をつけ、懸賞金を手に入れる悪巧みを計画する。
レビュー
沖縄ブームが起こる前の1992年に、沖縄で生活していた三人の若者が作ったオムニバス映画が、この「パイナップル・ツアーズ」です。当時、映画ファンの間で話題になっていた映画であり、僕も多分レーザーディスクか何かで見た記憶があります。制作30周年を記念して2022年にデジタルリマスターされており、2022年5月から沖縄や東京など一部地域で劇場再公開されていますが、残念なことに僕の住む街では上映されていないようです。
1992年に映画を見た時と2022年の現在では、僕の沖縄の文化や生活に対する知識も大きく違い、沖縄に対する想いもかなり変わっていますので、作品の印象は改めて見ても大きく変わっているように思います。それは、映画で描かれる沖縄の架空の島である具良間島の風景が違和感なく受け入れられているところや、登場人物の喋る沖縄方言もすんなりと入ってくるという感覚が、当たり前のように感じられる点にあると思います。沖縄は日本の一部ではありますが、やはりどこか別の国という意識も持っていて、それがこの映画の描写にもよく現れていると思います。
その沖縄の文化や生活様式を余すところなく作品に込めているのは、この映画の魅力の一つであります。前述のように登場人物は当たり前のように沖縄方言を使いますし、沖縄の生活様式がつぶさに描写されていますが、それをどう日本本土の人に伝えるかが、問題提議の一つでもあったように思います。もちろん沖縄の人が見ても面白いと思えるような展開になっていることも前提としてありますから、その難しさはハードルが高かったのかもしれません。沖縄方言に日本語字幕がつくという仕掛けもその解決策の一つであったかと思います。
映画は三本のオムニバス映画で構成されていますので、それぞれが独立した物語を持っていますが、その一方で三本のオムニバス映画の脇役キャラは共通で出演していますので、ストーリーとしては一本の繋がった映画としても成立していて、一つのエピソードで仕掛けられた伏線が映画全体のストーリーで回収されるという面白い仕組みを持っているのも特徴です。
三つのエピソードの監督のうち、中江裕司だけは京都出身で大学進学時に沖縄に移住し、そのまま沖縄生活を送っている方ですが、彼だけは「パイナップル・ツアーズ」以降も「パイパティローマ」や「ナビィの恋」、「ホテル・ハイビスカス」などの映画でナイチャーの映画ファンにも高評価を受ける作品を作っており、知名度という点では一番高いのではないかと思います。では、他の二つのエピソードを監督した真喜屋力や當間早志はどうなのかというと、この二人は生粋の沖縄っ子であり、「パイナップル・ツアーズ」以降も沖縄に根ざした活動を続けています。真喜屋力は沖縄ブームだった2000年前後に出版された沖縄関連本でいくつかコラムを書いていたのをよく覚えていますし、當間早志は2022年にやちむんのデビュー30周年記念ライブ映画「一生売れない心の準備はできてるか」を監督し、この作品を僕も見ていて、當間早志の活躍を久しぶりに目の当たりにしたところであります。
真喜屋力が監督した「麗子おばさん」は、声が出なくなった麗子というオペラ歌手が声の出ないまま、島のおばぁたちの前で歌うというクライマックスが待ち受けていますが、そのシーンで島の男である幸雄が三線を引くシーンは結構ジーンとくるシーンでもあります。幸雄を演じたのは今や沖縄芸能の大御所となった新良幸人でありますが、彼の弾く三線の音色が心地よく感じられます。
中江裕司の監督した「春子とヒデヨシ」は、ナイチャーの若者ヒデヨシと島の娘春子との恋愛模様ですが、ヒデヨシの態度は子供の父親になりたくない男の心理を表しているとも取れるし、島に縛られたくないナイチャーの心の表れという側面も表しているようにも思います。どちらにしても気のよさそうなヒデヨシですが、大人になりきれていない感触を受けます。ヒデヨシを演じているのは当時人気映画監督でもあった利重剛であり、もちろんナイチャーの人ですから、映画のヒデヨシのキャラ作りに信憑性を上げる要因になっていると思います。
當間早志の監督した「爆弾小僧」は、3つのエピソードの中で一番カラッと明るい展開のエピソードだと思います。島のパンクバンド、爆弾小僧の二人、アキラと夏子が不発弾を見つけて1億円の懸賞金を得ようと目論む話ですが、この二人、悪巧みをするたびに鶏小屋に入れられるという展開に、ギャグ性を感じました。それで3つのエピソードのラストの作品ですから、「麗子おばさん」や「春子とヒデヨシ」のエピソードのその後も描いていて、それらのエピソードの伏線を綺麗に回収しているので、すっきりしたラストになっていると思います。
全編を通して、脇役キャラとしてカマドおばぁ演じる平良トミや、リンスケ演じる照屋林助など沖縄芸能の大御所が多数出演しているので、物語を盛り上げる役割を担っています。また、全編を通してアメリカ軍が落とした不発弾が物語の軸になっているので、ストーリーに一貫性があります。
映像は残念ながらSD/SDRでの配信になっています。レーザーディスクやDVDの時代だからこそビデオ化され、Amazon Prime Videoでも配信されていますが、Blu-rayや4K UHDでは採算が取れないのか、これを書いている2022年11月6日現在ではデジタルリマスター版を元にしたビデオのリリースの話は聞きません。DVD画質なので、解像度はかなり低いし、NTSC起因のノイズが結構乗るので、画質という面ではかなり厳しいと言わざるを得ません。夜のシーンでは盛大にノイズが乗りますし、昼のシーンも沖縄ならではの明るいトーンが再現されていません。物語そのものは面白いのですが、ことAV視点で語った時には、残念としか言いようがないです。
音響はスペック表には2.0chと書きましたが、モノラル音声です。1.0chのモノラルではなく、2.0chを使ってのモノラルのように聞こえます。それは、音の定位感とか、厚み感に2.0chモノラルであると感じた次第です。ただ、音楽監督が照屋林賢なので、その音楽性は優れているものがあり、映画を盛り上げる効果は十分発揮していると思います。
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