佐野元春 & THE COYOTE BAND「今、何処 TOUR 2023」福岡市民会館
2023年7月1日
佐野元春、新型コロナ感染で岡山、福岡公演見送り
佐野元春 & THE COYOTE BANDの傑作アルバム「今、何処」をリリースしたのは2022年7月のことで、それから1年近くを経過して、ようやくアルバム「今、何処」をフィーチャーした全国ツアーが開催されることが決定した。ここ福岡ではツアー3本目にあたり、6月11日の日曜日開催なので、なんの障害もなくライブに参加できると思っていた。
しかし、公演2-3日前にTwitterを見ていたら、「佐野元春、岡山、福岡公演見送り」という見出しがあって、「何、それ?」と不安に駆られながらもリンク先のMoto’s Web Serverの「今、何処 TOUR 2023」のサイトを見た。すると、佐野元春がなんと新型コロナウイルスに感染してしまったために、6月10日の岡山と11日の福岡公演を見送ります、振替公演になるか、公演中止になるかは後日発表しますので、チケットは大切に保管していてください、と書かれていた。
ツアー初日が埼玉の戸田市文化会館だったので、そのときに感染したのかなと思ったが、佐野元春ももう67際だし、症状は大丈夫なのかな、という本人に対する心配と、今回のツアーのほとんどが土日開催だったので、振替公演ができるのかという不安が心をよぎり、落ち着いていられなくなった。
ただ、当初のライブ予定日を過ぎて数日を経過すると、佐野元春のラジオ生出演の情報も飛び込んできたので、新型コロナに対する影響はひどくはなかったのだな、と一安心できたし、岡山と福岡の振替公演日も決定し、安堵できた。しかも福岡は7月1日の土曜日という当初の開催予定日から1ヶ月も経たないうちの振替公演であり、ツアーの本数としては当初通りの3本目に当たるので、焦らされることなく待つことができた。土日開催にこだわると、ツアーファイナルだった9月以降に振替かなと思っていたので、想定外の早い日程に歓喜したのも事実である。岡山は残念なことに9月に振替になってしまい、しかも平日開催に変わってしまったが、それでも振替公演できるのだからいいとは思った。
梅雨前線の影響下でライブ当日を迎える
福岡の振替公演が決まって、ワクワクしながら当日を待っていたのであるが、1週間前から別の心配が起こってきた。沖縄・奄美が梅雨明けしたため、梅雨前線が北上してしまい、福岡公演日を含む前後3日間は大雨の恐れがあるから、避難の準備等をしておいてください、というニュースや天気予報が流れ出してきたのである。しかも、日を追うごとに天気予報の精度は上がり、7月1日の大雨は確定しそうな雰囲気だった。僕の住む福岡市西区の方は、JR線が走っているのであるが、このJR線、少しの大雨や強風ですぐに遅延や運行停止になるから、「当日、福岡市民会館に行けるのかな? そもそもライブ開催できるのか?」という別の不安を感じていた。ただ、金曜日になると天気予報通りにはならなくて、思ったほど雨は降らなかったし、7月1日の土曜日の天気予報も雨は午前中で止み、午後は曇り空という予報に変わっていたので、前日には「大丈夫。行ける。」という安堵感に変わっていた。
早めに福岡市民会館に移動し、東北放送のインタビューを聞きながら開演を待つ
当日、雨は午前中は降っていたが、激しいものではなく、昼頃には止んでいた。JR線も平常運行だったので、安心して福岡市民会館に移動できた。開場時間の17時に行くには16時少し前に家を出れば十分間に合うのだが、家にいても焦ったいので、早めに家を出て、天神をウインドショッピングしながら福岡市民会館に向かった。
福岡市民会館に着いたのは16時20分で、ツアーグッズの先行販売を行っていたので、ツアーパンフレットを購入した。それから開場時間まで会館の外で待っていたのであるが、仙台のラジオ局、東北放送が16時代に佐野元春へのインタビューを放送する、と公式サイトで聞いていたので、iPhoneにインストールしてあるradikoアプリで東北放送を選局し、佐野元春のインタビューを聴きながら開場時間まで待った。僕がradikoプレミアム会員であるからエリア外の東北放送も聞けたのであるが、なんか不思議な気分だった。佐野元春本人は福岡市民会館の楽屋でライブを待っているのに、ラジオは仙台の放送局に出演しているのだから。仙台の方は録音だと思うのだが、待ち時間を潰せて助かった。
16時50分ぐらいにチケットの準備のお願いがプロモーターからあった。予定通り17時には開場し、チケットをプロモーターの人に確認してもらって、ツアーグッズであるTシャツをもらって会場に入った。グッズはすでに購入済みなので、自分の席につき、開演までネットを見ながら時間を潰していた。Facebookに書き込みをしたところ、何人かの佐野元春ファンの方からレスポンスがあり、その返信をしたりしていた。ただ、何処からかは知らないが、山陽新幹線で福岡に遠征しようとしていたファンの方は、広島-博多間が新幹線は大雨のため運行中止になり、福岡に辿り着けなかったという書き込みを見つけ、残念に思った。
僕の席は結構前の方で、かつギターの深沼元昭側だったのだが、ステージ上には大きな「今、何処」のアルバムジャケットが印刷された垂れ幕がかかっていた。ただ、それがステージの前、佐野元春やTHE COYOTE BANDのメンバーより前の位置にかかっていたので、どういう演出になるのか、少し疑問に思った。
振替公演ということもあり、都合がつかなかったファンの人もいたのだと思うが、それでも席の埋まり具合は9割5分ぐらいで、ほぼ完売に近かったのではないかと思う。新型コロナの扱いが5類に移行してマスクの着用が個人の判断に委ねられたこともあり、ファンの半分ぐらいはノーマスクで会場に入っていたと思う。僕は一応はマスクはしていたが、暑苦しいなとは思っていた。
待つ間、場内アナウンスがあったが、17時59分に「間も無く開演します」という場内アナウンスがあり、その後、開演前のBGMがジャッキー・トレントの「Where Are You Now」に切り替わって、場内の盛り上がりが急上昇した。そして、ライブは始まった。
※ここから先は演出も含め、ネタバレになりますので、ライブ未見の方は注意ください。
セットリスト本編
- OPENING
- さよならメランコリア
- 銀の月
- クロエ
- 植民地の夜
- 斜陽
- 冬の雑踏
- エンタテイメント!
- 新天地
- 愛が分母
- ポーラスタア
- La Vita é Bella
- 純恋(すみれ)
- 詩人の恋
- エデンの海
- 君の宙
- 水のように
- 大人のくせに
- 明日の誓い
- 優しい闇
ライブ本編は「OPENING」から始まった。でも、THE COYOTE BANDのメンバーの演奏ではなく、シーケンサーか録音したものを流している様子だった。「OPENING」が流れている間にステージ前にあった「今、何処」のアートワーク垂れ幕はステージ上に巻き取られ、なんとステージ後方の壁面一面に映像が流れていたのである。映像も晴れた荒地の風景に雲がなびいているというまるでビデオクリップの一場面のような映像だった。「OPENING」が流れている間に佐野元春とTHE COYOTE BANDのメンバーがステージに上がり、演奏する準備を整えた。だから「OPENING」はアルバム収録時間より長い。
一曲目は想定通り「さよならメランコリア」だったが、やはりこの曲を一曲目に持ってこないと、「今、何処 TOUR 2023」のスタートは切れないなとは思った。元春の声も元に戻っていて、新型コロナ感染の後遺症もなく、「帰ってきたんだ」と思わせる歌い方だった。
二曲目は「銀の月」とアルバム通りのランニングオーダーだった。これもご機嫌な楽曲で乗れる曲である。映像はビデオクリップでも一部流れていた宇宙服を着た人がギターを弾く映像と、月の映像が交互に流れ、インパクトを与えていた。映像のインパクトが強すぎて、本来のライブだと佐野元春を注視するところが、どうしても映像に目が行きがちで、ちょっと目のやり場に困った部分はある。左の脇で佐野元春を押さえながら中央はなんとなくスクリーンの映像をおさえている感じである。
「銀の月」が終わるとMCが入る。「今日は振替公演になりますが、みんな待っていてくれてありがとう」といった話をしていた。そして、これもアルバムランニングオーダー通りに「クロエ」を演奏した。この曲もアルバムの中では好きな楽曲なので、じっくり聞いた。映像もビデオクリップの一部と、歌詞の一部を表示する演出だった。
続けて演奏されたのは「植民地の夜」。これも映像は歌詞を全面に出したものになっていて、佐野元春の意図がよくわかるようになっていた。歌詞を改めて追いかけると、ある種のメッセージを包含しているかのように思える。
ここでMCが入り、「THE COYOTE BANDが結成して18年になります。パンデミックを乗り越えました」と話しした後、これまたアルバムのランニングオーダー通りに「斜陽」を演奏した。これも歌詞を表示した映像が流れ、印象深いものになっていた。
続けてさらにアルバムランニングオーダー通りに「冬の雑踏」が演奏された。これも映像は歌詞の一部とイメージを表示し続け、歌詞の内容を十分に理解し、アルバムの意図を伝えようとする目的を果たしているかのような気がした。
「冬の雑踏」を演奏し終わると、MCが入る。2022年の活動を総括した話をしていて、「みんないい感じ?」なんてことを観客に聞きながら、次はついにアルバムランニングオーダーから外れて「エンタテイメント!」を演奏した。この楽曲でも映像は大活躍していたが、歌詞を聞きながら、新型コロナ禍を暗黙のうちに歌っていたはずのこの楽曲が、別の意味を持つ歌詞に聞こえてしかたなかった。それは、この後のセットリストで余計に強く感じたものだった。
また、MCが入り、「僕は福岡の街は、アルバム出すたびに訪れていました。きてくれてありがとう」などと話をしてから、多分ライブ初披露になるだろうと思う「新天地」を演奏した。アルバム「ENTERTAINMENT!」収録の楽曲だが、前回の「WHERE ARE YOU NOW TOUR」では演奏されなかったと思う。この楽曲までスクリーン投影による映像は続いた。
MCが入り、「パンデミックなど厳しい時代が続いています。良い時代が来ればいいなと思います」と話しして、「愛が分母」を演奏した。ここからはスクリーンは隠され、通常のライブ演出に戻った。ギターとキーボードによる演奏が乗りの良さを表現している楽曲であると感じた。
ここまでは2022年に出した2枚のアルバムからの選曲に終始していたが、ついに過去曲の演奏になった。それが「ポーラスタア」である。過去曲とは書いたが、THE COYOTE BANDとのコラボ楽曲なので、そんなに古い楽曲ではない。それでも、10年近く前の楽曲なんだなと思わせるところはあった。
続けて「La Vita é Bella」とアルバム「Zooey」からの選曲が続く。ある種の希望を抱かせる楽曲だが、ご機嫌なリズムで、楽しく聞かせてもらった。
MCが入り、「僕らは昨日、福岡に入ったのですが、夜、すごい雷で目が覚めました」という話をして、バンドメンバーに話を振った。ドラムの小松シゲルに話を振ったところ、「そんなに気にならなかったです」という拍子抜けの回答で笑いを取っていた。この辺りから会場のファンの人たちも声を出し始めていたように思う。僕の後ろにいた女性ファンはライブ冒頭から「元春ー!」と声援を送り続けていたのであるが、様子見だった他の観客も声援を送り出すようになっていた。そして、「純恋(すみれ)」を演奏した。
そして、意外に思ったのが次の楽曲「詩人の恋」だった。この楽曲から再びスクリーンが復活し、歌詞がスクリーンに映し出されしていたのであるが、その詩の秀逸さと同時に、切なさが込み上げてくるものを感じていた。ある意味、この「今、何処 TOUR 2023」のハイライトの一つではないかと思う。
ここからは再び「今、何処」からの選曲に戻る。「エデンの海」からアルバムのランニングオーダー通りの演奏になり、スクリーンの映像もイメージを表現し、「今、何処」の世界観を表していた。映像があるのとないのとでは、その楽曲の印象が大きく異なるのを感じていた。これ、いずれはライブBlu-rayになるのではないかと思うが、映像表現をどうするのか、大変だろうな、とは思った。
続けて「君の宙」を演奏。これもじっくり聴くタイプの楽曲であり、「詩人の恋」と並んで心打たれるタイプの楽曲である。映像では歌詞が流れ、心に染み渡る。
間髪入れずに「水のように」を演奏。どこかのラジオ番組の出演で、この「水のように」は歌います、とは言っていたので、予想通りだったが、映像のイメージがよく、魅力的な楽曲に仕上がっていた。
更に間髪入れずに演奏されたのはアルバムランニングオーダーから外れて「大人のくせに」。「永遠のコメディ」をすっ飛ばしての演奏である。「永遠のコメディ」はついに演奏されなかったが、ライブ終盤でのこの楽曲の演奏は会場のボルテージアップには似合わないと判断したのかもしれない。「永遠のコメディ」はテンポもスローだし。
MCが入って「明日の誓い」が演奏された。これで、アルバム「今、何処」からの選曲は終わりになる。ここまで選曲を聞いてきて、新型コロナ禍を予見したアルバムと評されてきた「ENTERTAINMENT!」と「今、何処」であるが、どう見ても僕には今の日本を覆う酷い状況を告発するかのような選曲と歌詞のような気がして仕方なかった。特に昨年と今年、沖縄に旅行に行って、沖縄を覆う日本本土からの差別について気にかけていたのであるが、そういう部分や日本政府、特に自民党の政策のひどさに呆れ返っていたことも含め、僕にはそういうことを批判するかのような選曲に感じられてしかたなかった。佐野元春がどう思っているかは知らないが、僕にはそう感じられた。
そして、ライブ本編最後は「優しい闇」を歌いきった。歌い終わった後の会場のボルテージの高さには驚いた。まるでコロナ禍が完全に明けたかのような雰囲気すら漂わせていた。もちろん、コロナ禍は明けたわけではなく、単に個人の責任に変わっただけなのだが。
セットリスト-アンコール
- Sweet 16
- アンジェリーナ
アンコールで登場した佐野元春は、ライブでは久しぶりの「sweet 16」を歌い出した。数日前に名盤ライブ「SWEET16」のライブBlu-rayをリリースしたので、その宣伝も兼ねているのだと思うが、名盤ライブでは歌ったものの、通常のライブではそんなに演奏しなくなったこの「sweet 16」を演奏するのは、ご機嫌な気分だった。
そして、アンコールの二曲目であり、ライブ最後の楽曲は「アンジェリーナ」だった。もちろん会場はヒートアップしていて、多分観客の人はサビの「今夜も愛を探して」の部分を一緒に歌っていたと思う。僕はマスクはしていたものの、声を出してサビは歌っていた。
ライブが全て終わり、なんかもう一曲アンコールがありそうな雰囲気もあったが、それはなく、バンドメンバーの紹介を行った。ギターは深沼元昭と藤田顕、ベースは高桑圭、キーボードは渡辺シュンスケ、ドラムは小松シゲルといういつものメンバーだった。そして、2枚のアルバムを出せたことに感謝します、という話や、振替公演になってしまったことに対する観客への感謝やプロモーターへの感謝なども話していた。そして、メンバーはステージから去り、BGMに再びジャッキー・トレントの「Where Are You Now」が流れる中、ライブは完全に終了した。ライブ終了後に「今、何処」がBGMで流れるかと思ったが、当ては外れた。
ライブ終了後のサプライズ
ライブ終了後、会館の外に出ようとは思ったのだが、一抹の期待を持って歩いていた。それは新型コロナの感染対策が終了したので、佐野元春のライブではお馴染みだったセットリストのボード公開がないかな、と思っていたのであるが、今回のツアーではあった。ただ、人混みを避けるためか、整列行列を作らされ、あまり人が密集しないような状況下でセットリストボートを撮影するようになっていた。僕も列に並んで、セットリストボードを撮影して、満足した。ライブでの声出しも含め、ようやくポストコロナの時代に入りつつあるのだなという実感が湧いてきた。このライブはとてもいいライブで、満足いくものであった。1時間45分しか演奏時間はなかったが、不満を感じさせない演奏で、楽しいひと時を過ごせた。僕は深沼元昭側の席だったので、深沼元昭がソロでステージ前に出てくると、一際大きな拍手を叩いたものだが、いいライブだったと思う。
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