哀れなるものたち(4K UHD/Disney+)|Apple TVで観た映画のレビュー
No Image | 原題 | POOR THINGS |
レーベル | SEARCHLIGHT PICTURES | |
制作年度 | 2023年 | |
上映時間 | 141分 | |
監督 | ヨルゴス・ランティモス | |
出演 | エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー | |
画面 | 1.66:1/DOLBY VISION | |
音声 | DOLBY ATMOS 英語 | |
字幕 | 日本語 |
あらすじ
科学者であるゴッドは、ベラという女性の世話をしていた。ベラの本当の正体はわからなかったが、ベラになる前に橋から身を投げて自殺していた。自殺した女性のお腹の中には胎児がいて、死体を見つけたゴッドは女性の死体に胎児の脳を移植して、蘇らせていた。そのため、ベラは体は成人女性なのだが、知能が子供という不安定な状態で生きていた。
ゴッドは自分の研究を学んでいたマックスという若者をスカウトし、ベラの観察を任せる。マックスはベラの行動を逐一記録していた。そして、ベラに心惹かれていったマックスを見たゴッドは、ベラとマックスを結婚させようとする。
その婚姻届を弁護士であるダンカンという男に書かせたところ、ダンカンもベラに惹かれてしまい、ベラを口説いて街に彼女を連れ出す。そして、ベラはダンカンとともにヨーロッパをめぐる旅に出ることになる。
旅行の途中でベラは何回もダンカンとセックスを行うようになり、性に対する好奇心が旺盛になってしまう。ダンカンもベラの体の虜になるが、子供の知性しかないベラの思考にはついていけないでいた。
船での旅行中にベラは、他の乗客からある街で子供が搾取されている事実を見せつけられ、同情からダンカンの資産を全て子供達に寄付をしてしまう。そのためダンカンは無一文になり、ベラとダンカンは途中で船を下ろされる。
ホテルにすら泊まれないダンカンを見たベラは、売春宿で働いている元締めに出会い、自身の体を売ることで金を稼ぐようになる。そして、売春婦としてダンカン以外の男とセックスを繰り返すことで、次第にダンカン以外の男について学んでいく。ダンカンは売春婦になったベラに嫌悪感を抱くが、ベラは気にもしていなかった。
ゴッドは幼少期から父の研究対象として体をいじられていて、満身創痍の状態で、病気も患っていた。そんなゴッドの元にベラから手紙が届いた。それを読んだゴッドはマックスにベラを迎えにいくよう指示する。マックスはダンカンと接触し、ベラの居場所を探して、ベラをゴッドの元に連れ戻す。
ゴッドの元に戻ったベラは、マックスと交流を重ね、自身が売春をしていた事実を知りながらも自分を受け入れてくれたマックスと結婚する決意をする。
しかし、結婚式の最中、ダンカンはアルフィーという将軍を連れてきて、式を妨害する。ベラは自殺する前はヴィクトリアという名前を持っていて、アルフィー将軍の妻だったというのである。ヴィクトリアは子供を孕んだことで精神的な不調に陥り、自殺したのだという。ベラは、一旦アルフィー将軍の元に戻る決意をする。
アルフィー将軍はかなり粗暴な性格であり、ベラに対しても同様の態度を取ろうとする。そのため、ベラは自身の自由を確立するために、アルフィー将軍と対峙する。
レビュー
アラスター・グレイの同名小説を原作に、ヨルゴス・ランティモス監督がエマ・ストーンを主演にして制作した作品が、この「哀れなるものたち」です。2024年のアカデミー賞でエマ・ストーンが主演女優賞を、また美術賞や衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞と計4部門を受賞した話題作になります。制作費に対して北米でのチケット売り上げはトントンですが、全世界では3倍近い売り上げを記録していて、この手の作品にしては成功していると言えます。映画としての評価は高く、Rotten Tomatoesの批評家評価は92%、観客評価は79%と高評価を得ています。
この映画は身体機能が成人女性ですが、知能が子供というベラという女性の成長物語であると同時に、セックスシーンが多いことで、性に対する欲望を直接的に描いています。エマ・ストーンが体を張ったセックスシーンを何度も描き切ることで、性の営みというものが生きていく上で、そして人間として成長する上でどう影響を与えるのかを鋭く描写しています。あまりに直接的なセックスシーンと、エマ・ストーンのヌードシーンが多いので、かなりエロティックな作品に仕上がっています。
その一方で、物語的にはフランケンシュタイン的な内容でもありますし、「新スター・トレック」のデータ少佐のようでもあります。物語冒頭で魂を持たなかったベラが次第に魂を持ち、自我に目覚めていく物語でもあります。最初は人形のようだったベラが、次第にセックスを通じて自分を確立していく様は、女性の自立という点でかなり大きなウエイトを占めています。
ベラになる前の自殺した女性が何者だったのかは、物語のクライマックスで明らかにされますが、ヴィクトリアという名前で呼ばれていたベラが、ヴィクトリアの夫であったアルフィーと出会い、アルフィーの粗暴な性格を知る上で、なぜヴィクトリアが自殺しなければならなかったのか、ベラになった今、アルフィーとどう折り合いをつけていくのかは、物語の肝でありますし、ラストのアルフィーのその後を見ていると、ベラがどう成長したのかがよくわかるようになっています。
画像は4K/DOLBY VISIONで配信されています。エンドクレジットにもあるように、フィルムで撮影されていて、最後のマスターとしてDIにまとめていますので、ネイティヴ4Kでの配信になります。フィルム撮影ということもあってか、最近では珍しい1.66:1のヨーロピアンビスタサイズで撮影されており、また、序盤のゴッドとベラの生活シーンがモノクロで描かれているため、印象が強く残る映像になっています。カメラも魚眼レンズを通して描写されるシーンがいくつもあり、インパクトが大きいです。ベラがダンカンと旅に出た後はカラー映像になりますが、その色彩も原色を強調したものになっており、ある種のファンタジーとして成立しています。解像度はかなり高くて、臨場感を感じさせます。
音響はDOLBY ATMOSで収録されています。あからさまな天井方向への音の配置はあまり感じられないのですが、サラウンドチャンネルへの積極的な音の配置や、オブジェクトとしての音の配置と移動感は素晴らしいものがあり、映像を補完する効果を生み出しています。ドラマなのでおとなしい音響効果かなと思いましたが、BGMも要所要所で低域を含めて鳴り響きますし、音の渦に巻き込まれる感覚を受けます。
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