L’ULTIMO BACIO Anno 24 佐野元春 & THE COYOTE BAND ロッキン・クリスマス 2024 東京公演|恵比寿ザ・ガーデンホール
2024年12月24日
はじめに
今年、佐野元春 & THE COYOTE BANDの「ロッキン・クリスマス」が開催されると聞いた時、「初めて東京の公演を見に行けるかも」と思った。2019年に特別に熊本で「ロッキン・クリスマス」が開催された時に、当時住んでいた福岡から遠征して見に行った記憶はあるが、東京のプロモーター、ホットスタッフ・プロモーションが主催する「L’ULTIMO BACIO」というクリスマスイベントの一環として開催される「ロッキン・クリスマス」には今まで行けなかった。このイベントが始まった2011年から僕は会社の業務命令で神奈川を離れて福岡で生活することになったので、物理的にも時間的にも費用的にも無理で、見に行くのを断念していたのである。
しかし、今年、認知症の母とその介護をする父のフォローをするために会社と交渉して、夏に神奈川に13年ぶりに戻ってきたので、年末の「ロッキン・クリスマス」は行ける可能性が高くなった。残念なことに認知症を患っていた母は秋に突然この世を去ってしまったのであるが、四十九日を11月に執り行うことになったので、「ロッキン・クリスマス」には行けそうだった。
ただ、ネットの話ではチケットの確保は難しい、という話は聞いていた。会場である恵比寿ザ・ガーデンホールのキャパが小さいというのが原因の一つである。それでも、ファンクラブでチケット先行予約をするというので、申し込みだけはしてみた。今まで観に行けた試しがなかったイベントなので、チケットが取れれば幸いぐらいに考えていた。
チケット予約当選? 落選?
ファンクラブのチケット先行予約の当落の発表日、夕方にメールをチェックしてみたところ、「当選」の文字がタイトルに書かれていた。しかし、メール本文を読むとなんかおかしい。なんと、チケットの先行予約ではチケットぴあのシステムを利用するのだが、どうもチケットぴあ側で僕のクレジットカードからチケット代を引き落とししようとしても、クレジットカードのセキュリティチェックが働いてしまい、引き落としができなかったので、チケットぴあのシステム上では「落選」扱いになってしまったのである。しかし、ファンクラブ事務局の方がチケットの抽選上では「当選」になっているので、ライブに行くか行かないかの宣言返信メールと、チケット代金を郵便振替で支払えば、紙のチケットを確保して、発送する、と言ってくれていた。
そのため、僕はファンクラブ事務局の方に「ライブには行きますので、チケットの確保をお願いします」と返信をして、速攻で郵便局に行って、必要事項を記入した郵便為替でチケット代を振り込んだ。
その後はなんの動きもなかったが、12月中旬にファンクラブ事務局から簡易書留でチケットが送付されてきた。これで、12月24日希望の「ロッキン・クリスマス」のライブに行けることが確定した。12月24日にしたのは、チケット争奪戦の倍率が少しでも下がる24日の方がいいだろうと思ったからである。恵比寿では2日間開催されるのだが、もう1日は25日とクリスマス当日なので、倍率高いだろうなと思ってのことである。
24日は仕事の調整をつけて、時間年休を取得して、午後をフリーにした。
恵比寿ガーデンプレイスは若い人ばかりで場違いな場所に来たな、と思う
24日当日、16時前に家を出た。恵比寿までは1時間半あれば家から恵比寿ザ・ガーデンホールのある恵比寿ガーデンプレイスには到着できる。電車を乗り継いで、17時過ぎには恵比寿ガーデンプレイスに到着した。
クリスマス・イブということもあり、大勢の人でごった返していた。しかもほとんどは若い人ばかりである。クリスマスツリーやイルミネーションが飾られていて煌びやかであったが、50歳代半ばの僕からすると、ものすごい場違いな場所に来たな、という印象が強かった。それでも、イルミネーションを写真や動画で撮ったりはしていた。
開場時間まで間があったので、「よつ葉 milk place」という店に入り、紅茶を飲んで時間を潰した。他の店は客で大混雑で座って時間を潰すことができなかったのである。ここの紅茶はなかなか美味しかった。
恵比寿ザ・ガーデンホールに入場、ビールとタパスで気分を上げる
17時45分に恵比寿ザ・ガーデンホールに向かった。すでにファンの人たちは入場待ちの列を作っていた。僕も列の最後尾につく。ファン層は当然ながら僕とそんなに変わりない年齢層なので、場違いな場所に来た、という思いが吹き飛んでいた。
18時過ぎに入場する。ドリンク代は別料金を支払うので、支払った。前回、恵比寿ザ・ガーデンホールに土岐麻子のライブを見に来た時には、エビスビールを頼んで、ホール内で飲みながら開演を待っていたのだが、今回のライブではホール内の飲食は禁じられていた。その代わりにロビーでアルコールの提供と、タパスと呼ばれる軽食の提供があった。せっかくクリスマスライブに来たのだからと、エビスビールの他にタパスを頼んで、クリスマス気分を盛り上げた。タパスは3品で1000円だったので、生ハムとか生春巻きなどを選んで楽しんだ。多くのファンはワインを頼んで飲んでいた。
18時半にホール内に入ったが、ロビーで飲食を楽しむファンが多かったので、まだホール内はガラガラだった。BGMにクリスマスソングが流れている。天井にはミラーボールが飾ってあって、クリスマス気分を盛り上げる。また、ステージ上には円柱の柱が4本立っていた。
恒例の注意事項の中には、能登半島の震災復興のために、寄付を募っていた。寄付をすると能登半島で日本酒作りをしている酒造メーカーの日本酒の試飲ができる、なんてことも伝えられていた。あとで見に行こうかなと思ったが、時間的にできなかった。
19時少し前に注意事項のアナウンスが流れて、19時ちょうどにクリスマスナンバーが流れ出した。壁には「Peace in World」の文字が表示され、場内は暗くなり、通常の照明演出のほかにレーザー光線による演出が効果を発揮していた。途中でバンドメンバーと佐野元春がステージに登場し、クリスマスナンバーが終わったあと、ライブは開始された。
ライブ本編セットリスト第一部
- Youngbloods(New Recording)
- つまらない大人になりたくない(New Recording)
- ジュジュ(New Recording)
- バイ・ザ・シー
- 世界は慈悲を待っている
- 欲望(New Recording)
- インディビジュアリスト(New Recording)
- みんなの願いかなう日まで
一曲目は、「Youngbloods(New Recording)」だった。佐野元春は、「ハロー、エブリワン。ヤングブラッズ、メリークリスマス!」と叫んでから歌い出した。最初からニューアレンジの「Youngbloods」が歌い出されたことで、テンションが上がる。
二曲目は、イントロだけではなんの楽曲かわからなかった。佐野元春が歌い出して、ようやく「ガラスのジェネレーション」だと気づき、驚いた。まさかこの楽曲をNew Recordingで演奏するとは思ってもみなかったので、びっくりである。アップテンポなアレンジだが、「Café Bohemia Meeting」の時のアレンジ的な重さも含まれていると思う。曲名は今回、「つまらない大人になりたくない(New Recording)」に変わっている。
三曲目は「ジュジュ(New Recording)」。前回の「Zeppツアーで逢いましょう」でも、披露されていた楽曲である。前に聞いた時にも思ったが、「ナポレオンフィッシュ・ツアー」の時のアレンジっぽいなと思っている。
三曲が終わってMCが入る。「クリスマスライブ、ずっとやってきていますが、クリスマス・イブに開催するのは初めてです。」と言って、会場を沸かせた。
そして四曲目がまさかの「バイ・ザ・シー」である。僕はこの楽曲は好きなのだが、ファンの間ではあまり人気はないらしい。ここまできて、選曲が意図されたものなのでは、という気がし始めていた。単なるクリスマスライブというだけでなく、今の社会情勢に対する異議申し立てを訴えるような歌詞が多いような気がしてきたのである。アウトロではギターとキーボード・ソロも入り、盛り上げる。
続けて「世界は慈悲を待っている」が歌われる。この楽曲は好きであるが、今回、キーボードの渡辺シュンスケの音色に注目して楽曲を楽しんでしまった。この楽曲の歌詞も意味深な部分はあると感じている。
六曲目は「欲望(New Recording)」である。この楽曲も「Zeppツアーで逢いましょう」で初披露していて、その豹変ぶりにびっくりした記憶はあるが、今回、改めて聞いて、やはりびっくりする。リリースされてちょうど30周年ということもあってか、演奏するタイミングがあったのだと思うが、歌詞はやはり重いと思う。アレンジは意外と軽いのだが。
七曲目は、「インディビジュアリスト(New Recording)」だった。こちらもすでに披露済みだが、結構かっこいいアレンジに仕上がっている。この楽曲も歌詞がヘビーである。「利己主義」ではない「個人主義」という日本人には理解し難い概念を歌っているので、考えさせられる。
MCが入り、「こんな大事な日にみんなと一緒に祝えるのが嬉しいです。L’ULTIMO BACIOで歌うのは11回目です。ずっと続けられているのも皆さんのおかげです。次に歌いたい曲は、大切な人を思って作った曲です。詩を知っている人がいたら一緒に歌ってください。」と話したあと、前半のラスト曲、「みんなの願いかなう日まで」を歌った。この楽曲をライブで聞いたのは今回を含めて3回である。「ロッキン・クリスマス」でしか披露しないので、普段のライブでは聞けない。だからこの楽曲を聴けて嬉しい。配信で聴いた時にはピンと来なかったが、ライブで聴くといい楽曲だなと思う。ちなみにファンの人で一緒に歌っている人はいなかった気がする。
「みんなの願いかなう日まで」を歌い終わったあと、20分間の休憩に入った。前半戦の演奏時間は40分。ファンは、皆トイレに行くのでトイレは大混雑。僕もトイレに行ったあと、もう1本ビールをと思ったが、ロビーが大混雑していたので、諦めてホールの自分の席で大人しくしていた。
ライブ本編セットリスト第二部
- 雪-あぁ世界は美しい
- 君が気高い孤独なら
- 冬の雑踏
- 愛が分母
- クリスマス・タイム・イン・ブルー
- 水のように
- 大人のくせに
- La Vita è Bella
後半戦が始まって、最初の楽曲には意表を突かれた。僕の記憶にある限り、「ナポレオンフィッシュ・ツアー」の夏のスペシャルイベント、「横浜スタジアム’89・夏」の時に聞いて以降ライブでは聞いたことがなかった「雪-あぁ世界は美しい」が歌われたからである。厳密にはクリスマスソングではないが、この時期に相応しい楽曲であると同時に、やはり歌詞が示す現代の社会に対する異議申し立てが見え隠れていると思った。
後半戦最初がしっとりした楽曲だったので観客全員着席して聞いていたのだが、二曲目の「君が気高い孤独なら」で全員総立ちである。この楽曲もあまり聴くことはないので新鮮に感じた。THE COYOTE BANDの初期の楽曲であり、原点である。アウトロで藤田顥のギターソロが入るので、ご機嫌なグルーヴが生み出される。
三曲目は、「冬の雑踏」だった。歌詞の「あの人は今…」のあたりを聞いた時、この世を去った母のことを思い出していた。僕にとってはこの楽曲は母へ鎮魂歌のように聞こえた。アルバム「今、何処」を聞いた時にはそんなことを考えるとは想像だにしなかったのだが、自身の経験を得て、別の次元での感じ方をしているように思える。
MCが入り、「世間では心が痛くなることがいっぱいありますけれど、少しでも良くなって欲しいと思います。」と言ったあと、「愛が分母」を歌い始めた。この楽曲を最初配信で聴いた時、あまりピンときていなかったのだが、佐野元春は歌詞の中にいろいろな想いを込めているようである。「愛が分母」というわかるようでわからないタイトル自体が、この楽曲の奥深さを表していると言える。THE COYOTE BANDの演奏も手慣れたもので、配信でジョイントしていたスカパラ・ホーンズがいなくても楽曲はちゃんと成立している。「愛が分母」というサビではファンは合唱していた。
MCが入り、「ありがとう、嬉しいです。この時期ですからクリスマス・プレゼントですが、僕にとってのクリスマス・プレゼントは皆さんがこうやって集まってくれることです。次の曲は1985年にニューヨークで作りました。世界が平和になるように願います。」と言って、代表的なクリスマスソング、「クリスマス・タイム・イン・ブルー」を歌った。この楽曲も2011年以降、この「ロッキン・クリスマス」でしか聴けなくなったので、ライブで聴けたのはここ10数年では2回目である。この楽曲の歌詞ほど佐野元春の今回の「ロッキン・クリスマス」で訴えたいテーマを端的に表しているものはないと思う。後半で渡辺シュンスケのソロがあったり、ラストにクリスマスソングが入り込んだりと、クリスマスを祝う歌でありながら、それでいて社会的テーマを内含するという不思議な歌である。
六曲目が「水のように」といきなりアルバム「今、何処」から選曲されるが、意外に「クリスマス・タイム・イン・ブルー」からの連携がうまく行っている。「今、何処」のアルバム自体はコンセプト・アルバムだったが、このようにバラバラにされてもちゃんと歌詞の持つ意味が伝わってくる。
七曲目は「水のように」から続けて「大人のくせに」。辛辣な歌詞が続くがそんなに違和感を感じない。そして、ライブ自体が終盤に入っていることを確信させる選曲だった。
後半戦ラストの楽曲は、「La Vita è Bella」だった。この楽曲は、まさに希望を訴求する歌であり、混迷する世界に対しての救いの歌であると言える。後半戦ラストの楽曲には相応しい選曲ではないかと思う。
「La Vita è Bella」を歌い終えたあと、佐野元春は「嬉しいです、どうもありがとう。THE COYOTE BAND!」と言った。そしてバンドメンバーと共にステージを去った。ファンは当然ながら高いボルテージで、アンコールを要求していた。後半戦の演奏時間は50分だった。
ライブアンコールセットリスト
- エンタテイメント!
- 純恋(すみれ)
- ダウンタウン・ボーイ(New Recording)
- アンジェリーナ
バンドメンバーと佐野元春がステージに戻ってきて演奏したのが「エンタテイメント!」だった。この楽曲もタイトルとは裏腹にシリアスな内容の歌詞で、納得させられる選曲だと思った。1番の驚きはアンコールで演奏されたことだったが。
続けて「純恋(すみれ)」が演奏される。これも今までだったらアンコールでは演奏されることはない、ライブ本編内での盛り上げ曲なので、アンコールで演奏されることで意外性を増していた。アンコールということで僕のボルテージも上がっていた。
MCが入る。「もうすぐ年末、新しい1年がきます。もう一曲、景気のいい曲を歌います。」と言って、初期の「ダウンタウン・ボーイ(New Recording)」が演奏される。この選曲は意外で、会場内の盛り上がりは凄かった。サビの部分ではファンが合唱していたし、アレンジもご機嫌だった。
アンコールで三曲を披露し、佐野元春とバンドメンバーは楽器をローディーに渡した。そして、THE COYETE BANDのメンバー紹介をした。ギターは深沼元昭、ベースは高桑圭、ドラムが小松シゲル、キーボードが渡辺シュンスケ、もう一人のギターが藤田顥だった。
ファンからの拍手は鳴り止まず、より盛り上がってくる。佐野元春はバンドメンバーを集結させて、何か相談を始めた。そして、再びローディーが楽器を佐野元春とバンドメンバーに渡して、もう一曲、特別にアンコールを演奏した。デビュー曲の「アンジェリーナ」である。この楽曲の盛り上がり方は異常とも言えるぐらい凄かった。僕も弾けていた。
「アンジェリーナ」も終わり、「来年はデビュー45周年、そしてTHE COYOTE BAND結成20周年です。来年もライブで会えるのを楽しみにしています。メリー・クリスマス! 良いお年を!」と言って、佐野元春とバンドメンバーはステージを去った。そして、ライブは全て終了した。
今回、セットリストは会場では公開しなかった。代わりに入場時に貰えた紙のチケットの裏面にQRコードが書いてあり、それをスマートフォンでアクセスすると、秘密のURLにアクセスできて、セットリストが閲覧できるという仕組みになっていた。
2011年から熊本での公演を除いていくことが叶わなかった「ロッキン・クリスマス」であるが、ようやく東京公演を初めて見ることができて、とても幸せである。ライブのテーマも一貫性があり、単なるパーティライブではないことも明らかになった。いいライブを見させてもらった、という思いでいっぱいである。
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