佐野元春 & THE HOBO KING BAND TOUR 2006「星の下 路の上」 神奈川県民ホール

佐野元春 & THE HOBO KING BAND TOUR 2006「星の下 路の上」
神奈川県民ホール

2006年3月10日

 前回の江戸川区総合文化センターに続いて 2 度目の Tour 参戦を行った。4 月には Final の東京国際フォーラムにも足を運ぶ。何で何回もライブに足を運ぶのか。それは同じ曲を演奏していても、その日の気候、元春の気分、オーディエンスの気分、そういったものが曲の印象に違いを与えているからそれを実感したかったのである。

 前回の江戸川に続いて今回も天候がよくない。どうも佐野元春のライブのときに雨の降ることが多いようである。客席は 1 階の 9 列目という好位置だったので嬉しいことだが、オーディエンスの入りは今ひとつであった。2 階、3 階席には空席も目立つし、会場前のダフ屋すらいなかった。さびしい現実だけれど、音楽が単なる商品になってしまっている状況ではこうなるものなのかな、と思わずにはいられない。

 今回はツアーパンフを購入して、TT シスターズのお二人のお名前を確認する。竹内宏美さんと、田中まゆ果さんといい、竹内さんは実力派のコーラスのようである。歳が自分と 10 歳違うことに驚いてしまう。

 開演前にパンフを見ながら周囲の話を来ていると子供がある程度大きくなってライブにこれるようになったという妙齢の女性たちの話が聞こえてきた。前回の江戸川にも参加していたらしく、もしかしたら僕の近くにいたのかもしれない。世間は狭いな、と思っていた。その女性たちの話では「元春の歌はよく分からない。」と子供にも言われているようである。分からないよな、僕がファンになった頃に聴いていた元春の歌が今になってようやく分かってくるぐらいだから。

 ほぼ開演時間通りの 19 時 01 分に会場内に「夏のピースハウスにて」が流れる。なぜこの曲が流れるのか。元春が THE HEARTLAND や母との永遠の別れを告げ、その後 THE HOBO KING BAND という新しいパートナーを見つけたことと関係あるように思えた。続いてジャイアント・サイトの「The Beat Goes On」(「Radiofish」のオープニングナンバー)が流れてくる。この曲のタイトルも意味深である。THE HOBO KING BAND のメンバーたちが定位置につき、古田たかしの激しいドラムの音からライブはスタートした。

本編

HOBO KING BANDのテーマ’06
 前回「See Far Milesのテーマ」と書いたけれど、今回は正式に曲名が付いたし、前回の印象とまた異なっているように感じる。「See Far Milesのテーマ」とはサビの部分だけ少し似ているかな、という感じに変っていたように思える。でもご機嫌な曲である。今回もこの曲の途中で元春がステージに上がって来てギターを弾きまくる。
アンジェリーナ
 今回もアンジェリーナでスタートするが、今回は館内全照明状態とはならず、ステージ上が神々しく点灯するに留まった。アンコール曲としてでなく、オリジナルオレンジにリスペクトした演奏だったと思う。
僕は大人になった
 前回に比べると「See Far Milesのテーマ」+「オリジナルアレンジ」という印象に変っていた。この曲から TT シスターズが登場。佐橋佳幸のギターソロが冴え渡る。そして「I’m a Big Boy Now」のリフレインが印象的だったと思う。
COMPLICATION SHAKEDOWN
 何かこの曲のテンポが少しスローかな、という感じはした。一番のサビ「愛を込めてコンプリケーション・シェイクダウン」の歌う回数を元春が間違えてしまい、二番の歌詞の冒頭が飛んでしまった。でもさすがは THE HOBO KING BAND。古田たかしが苦笑しつつもちゃんとジャムセッション的にフォローをし続け、またファンの声援もあって途中から持ち直した。
STRANGE DAYS
 運悪くこの曲の途中で遅れてきた人が僕の席の隣に来たので気が散ってしまった。ちょっと「あの夜の向うに突き抜けられなかった」気分である。曲調はとても陽気なのに。
HEART BEAT
陽気なレゲエにアレンジされたこの曲も段々その良さが分かってくる。サビの Dr.Kyon のキーボードがとても心地よく、山本拓夫のフルートもご機嫌である。
99 BLUES
 この曲からステージ上方から星に見立てた照明が下りてきて、曲によって上がったり下がったりする。ツアータイトルの「星の下 路の上」ってこの照明が意味しているのかもしれない。アレンジはそう変っていないが、佐橋佳幸と Dr.Kyon のソロが引き立つ曲である。
INDIVISUALISTS
 この曲は更に細かいアレンジが加わっている。かつてのような疾走感こそないものの、ここでは井上富雄のベースがフィーチャーされていた。それと観客も分かっているようで最初から元春が「Big Fat Mama Said」と歌うとちゃんと「Sha la la la」と返してしまうのが凄いところである。
ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
 前回の江戸川のときに「どのアレンジに近いのかな。」とずっと考えていたのだが、多分「Land Ho!」に近いアレンジなのだろうな、と思う。この曲も間奏中の「Good-by to the World」というリフレインが強い印象を与えてくれる。「聖者が来ないと不満を告げてるエレクトリックギター」のところでギターのフィーチャーがされないのはちょっとだけ残念。
Rock & Roll Night
 元春の「よかったら座って聴いてください。」という言葉とともにこの曲が元春の弾き語りに近い雰囲気で演奏される。「たどりつくといつもそこには川が横たわっている」という歌詞は何を意味しているのか、ふと考えてしまった。
バルセロナの夜
 こんなぎすぎすした時代だからこそ、切なくて甘い普遍的なラブソングであるこの曲が歌われる必然性があるのだと思う。優しい気分になれる曲である。
Do What You Like
 今回はこの曲の持つジャジーな雰囲気にしっかりはまっていた。アレンジによって、またリスナーのそのときの意識、ミュージャンの気分、そういったものがこの曲は今回反映されている様に感じていた。
最後の1ピース
 元春の「THE SUN」に対する MC があった後にこの曲を演奏する。よく聴いていたら、「THE SUN STUDIO EDTION」の歌詞で歌われていた。ここでもちょっと歌詞忘れ発生。気になる程度ではなかったけれど。今回は全員総立ちである。
観覧車の夜
 イントロで TT シスターズのコーラスが大フィーチャーされていて、また印象が変ってしまった曲である。これも何となく「THE SUN STUDIO EDITION」に近い気もするが、そうでない気もする。でもお気に入りの曲であることには変わりない。
君の魂 大事な魂
 「THE SUN」Tour のときから元春は「 3 歳ぐらいの女の子がこの曲を一所懸命歌っていた。」と言っていたが、今回は「 6 歳ぐらいから上は 60 歳ぐらいまでかな、よく分からない。」と話が大きくなってしまってしまい笑ってしまった。でも最近この曲が好きになってきた。
Wild Hearts
 この曲の歌詞の持つイメージってかなり現実に対する諦めが強い気がする。それを三番の途中で陽気な別の曲を入れることによって肯定に変えているのではないかと思う。その別な曲ってよく考えたら「The Milk Jum Tour」のオープニングインストゥルメンタル曲のようである。
ブルーの見解
 THE HOBO KING BAND と TT シスターズのお遊び要素がとても大きくなってしまったためにこの曲の持つ「他人がそう簡単に自分のことを分かる訳ないだろう。」という投げやりな気分が抜けたような気がする。歌い終わった後、元春本人が「風変わりな曲だよね。」としゃべっちゃうのであながち間違った見方でもないだろう。
悲しきRADIO
 この曲が歌われる前、かなり長い MC があった。「MOTOHARU RADIO SHOW」のことからラジオに対する想いを語ったかと思えば、突然「僕は平和主義者だけれども、子供の頃は喧嘩もしたよ。」とか話し出すので何が起きるのかはらはらしてしまい、喧嘩の話は途中で終わって最終的にはラジオの話に戻ってこの曲が演奏された。この曲の三番の観客に「♪ムード盛り上げれば」と歌わせる定番パートは今回も一発 OK。こちらも心地いい気分になる。外すと元春すねちゃうからね。
So Young
 この曲もやはりラジオに関係しているよね、と思ったりする。「MOTOHARU RADIO SHOW」のオープニングでインストゥルメンタルナンバーとして演奏されていたと思うので、ちゃんと曲の並びは関係している。
レインボー・イン・マイ・ソウル
あまり演奏されることがなかった曲だし、ヒット曲というわけでもないけれど、「There’s Rainbow in My Soul」というフレーズはやはり希望を抱かせるものだと思う。もう少し見直されてもいい曲だと思う。
Youngbloods
 前回と同じくアレンジがオリジナルの 7 インチシングル版に近い。気をてらわないのがいいのかもしれない。ここでもちょっと歌詞を間違える。大した間違いじゃなく、「冷たい夜にさよなら」という回数が増えただけなのでまた優しい印象を持ってしまった。
約束の橋
 イントロが変っている上に歌いだしは「今までの君は間違いじゃない」から始まるのでやはりファンに対する応援なんだろうな、と思う。どうもトレンディドラマのタイアップ曲にされてしまったためにあまりいい印象を持っていない曲だったが、今回はとても素直に聴けた。
SOMEDAY
 ここでまた元春の MC が入る。「この曲を作ったのは 23 歳か 24 歳のころだと思うのだけれども、30 代になって歌っているとき、40 代になって歌っているとき、そのときの心情で希望について歌っていた。」といったようなことを話した後、この曲を演奏した。そんな話を聞いてしまうとやはり素直に歌ってしまう。やはり名曲だな、と思う。「SOMEDAY 信じる心いつまでも」。
NEW AGE
 本編ラストは「NEW AGE」。「SOMEDAY」ではなくこの曲なのにはちゃんと次に繋げる意味合いを持っているのではないかと思っている。ベタな言い方をすれば「新人類」だからである。マスメディアの騒ぎ立てる無意味な言葉としてでなく。

アンコール

国のための準備
 アンコール一発目はこの曲。今回は歌詞は変えなかったものの「国のための準備は出来ているかい ? 」というフレーズを執拗に歌っていたように思う。元春自身の苛立ちがうかがえるような気がするし、僕もそうである。
HOBO KING BANDメドレー – Short Edit
 Short Edit というぐらいなので確かにいつもより短い気はした。「I Love You」、「You Love Me」の観客とのレスポンスについてちゃんと初めてのリスナーにも分かるように説明するようになっているのにはやはり優しいな、という印象を受けた。今回のメンバー紹介の「そして最後に…」の担当は古田たかしで、ドラムを叩いた後、「ピース!!!」と楽しそうに声を上げていた。

 すべての曲が終了した後、元春も感極まるものがあったのかも知れない。「僕は 80 年にデビューして、初めて TVK でライブをして、そのころから比べると少しだけ歌がうまくなったかな。」とか、「今日ここに集まっている 30 代、40 代の中にはいまの世の中に絶望しているかもしれない。でも僕はそういう皆のために希望の歌をこれからも歌っていきたい。でもたまに絶望についての歌を歌ってしまうかもしれないけれどね。」といった MC をした後にライブが終了した。ちょうど 22 時 01 分。実はアンコールのときの THE HOBO KING BAND のステージ衣装を見ていたら何かサプライズを企んでいたように思えるのだが、会場の時間の都合とかでできなかったようである。メンバーはタキシードの絵が描かれた長袖Tシャツを着ていたのである。でもいいライブだったと思う。セットリストは江戸川と全く変わりなかったけれど、江戸川の時がものすごい疾走感のあるライブだとすれば、今回の神奈川県民ホールのライブは優しいライブだったと思う。

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