MATCHSTICK MEN
邦題 | マッチスティック・メン | |
レーベル | WARNER HOME VIDEO | |
制作年度 | 2003年 | |
上演時間 | 116分 | |
監督 | リドリー・スコット | |
出演 | ニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル、アリソン・ローマン | |
画面 | 2.40:1/アナモルフィック | |
音声 | DOLBY DIGITAL 5.1ch 英語、フランス語 | |
字幕 | 英語、フランス語、スペイン語 |
あらすじ
相棒のフランクとともに詐欺行為を家業にしているロイ。彼は、離婚により神経強迫症にかかっており、薬を服用しないと外出もできない、何でもかんでも清潔にしていないと気が済まない、ドアの開け閉めは必ず 3 回行なうという症状を起こしていた。そんなある日、彼はうっかり薬を台所の流しに落としてしまい、主治医に連絡を取ろうとするが連絡が取れず、新しい主治医の元、治療を受ける羽目になる。更に彼の別れた妻には子供がいることが分かり、ロイはアンジェラという少女に会い、奇妙な共同生活を始めることとなる。折しもロイとフランクは大物をペテンにかけようとたくらみを仕掛けていたのだが、アンジェラが詐欺行為に加わってしまったことで予定が大きく狂い始める。
レビュー
前作「ブラックホーク・ダウン」が激しい戦争映画だった反動か、今作はちょっとした軽い小品として仕上がっているな、というのが第一印象です。
物語の冒頭、正確に言えばワーナーブラザーズのロゴが出てくる辺りから水が印象に残ります。これが物語の前半度々出てきます。家のプールだったり、台所の水道だったり、詐欺で売りつけている浄水器だったり。画面も少しだけですが青みが強い印象を受けます。これはロイの神経強迫症、つまりなんでも清潔にしていないと気が済まない、というのを映像で表しているのではないかと思います。彼の神経強迫症は間違いなく正常の域を超えています。手の洗い方、ビニールの手袋を使用しているところ、カーペットの毛羽立ちが気になる、カーペットに靴で上がることに猛烈な拒絶反応を示すところなど、間違いなく物語冒頭のロイは精神的に異常を来たしているかと思います。(念のため申し上げて起きますが、アメリカでは家の中でも靴を脱ぐことはありません。その辺のことを知っていないとロイの神経の異常さは伝わってこないかと思います。)
何故彼がそんな状態になってしまったかといえば物語上では妻との離婚が原因であるかのように描かれていますが、実のところ自分が詐欺師であることの後ろめたさを自分でも気付かないうちに感じ取っているからこそ、そのような状態になってしまっているのではないかと思います。もっとも妻との離婚自体もその詐欺行為が原因だったので、どちらとも取れなくはありませんが、おそらく後ろめたさの方が強いと思われます。物語の途中で度々「自分は詐欺師であり、犯罪者でない。」というような主張をロイはしていますが、その発言自体が無理に自分を肯定しているものと思われます。
そんな彼に転機が訪れ始めます。一つ目は主治医が変わってしまったことです。これはラストのどんでん返しで大きな意味を持ってくるのですが、新しい主治医の治療(というのが正しいかというとちょっと違いますけれど)により、少し症状が改善されてきます。
もう一つの転機は彼の子供、しかもアンジェラという娘の存在でしょう。彼の知らないところで存在していた娘と出会い、彼女と奇妙な共同生活を始めるにつれて彼の症状は改善されていったようです。
アンジェラは、とても無邪気で詐欺をやっている父を肯定し、挙句の果てには詐欺の片棒まで担ごうとします。その行為そのものがロイの心境を徐々に変化させていっているような気がします。この辺りからロイの神経症の描写がぐっと減ってくることに気付くはずです。
そんなストーリーが前半は続きますから、「犯罪行為に走っていた男が娘によって更生していく物語なのかな。」と思っていましたが、そこは元々詐欺師の物語ですからそんな簡単に終わるわけはありませんでした。物語後半では大きな獲物をペテンにかけて大金をせしめようとするもののそれに失敗してしまい、一転してサスペンス調の展開に突入してまいります。その意外な展開にはこちらも「だまされた。」と思ったのですが、更にクライマックスにおいてもう一度どんでん返しがあり、「更にだまされた。うまい。」と唸らせる仕掛けがしてあります。まさか相棒のフランクや主治医、アンジェラといった登場人物の大半がロイをペテンにかけていたのですからあっと驚くのも無理はありません。ラスト前ですべてを失ったロイは呆然としてしまいますが、見ているこちらも「これでどうラストを締めるのだ ? 」という疑問が生まれてきます。
しかし、ラストはちゃんと親子の絆という物語に戻っていきます。すべてを失ったロイはカーペットを売る仕事につき、まっとうな生活をしておりますが、そこに訪れたのがアンジェラ。実の娘でもなんでもない赤の他人だった少女ですが、やはり奇妙な共同生活の中で二人の間には擬似親子関係ができてしまったのではないかと思われます。彼らの別れの言葉にそれは集約されているといえるのではないでしょうか。
更にエンディングで家に帰ったロイは、物語の最初とは違って強迫症もなく、一人の女性(しかも妊娠をしている)と幸せな生活を過ごしている描写で終わります。この女性、物語のかなり最初でスーパーの店員として登場し、脇役なのにやけに印象に残るな、と思っておりましたがラストを観ると納得です。アンジェラという擬似娘の存在、そしてこの女性の存在が彼をあるべき姿に落ち着かせたのではないかと思います。
詐欺師が主人公の物語のせいか、画面の切り替え効果やサウンドデザインも派手ではないものの凝った作りになっています。そういうところからも観て損のない愛すべき小品ではないかと思います。
画質については、前述に述べたように物語前半は少し青みが強い気がしますが、全編そういうわけでもなく、シーンごとに意図した色調になっているように思います。後半は割と普通の色合いのシーンが多いような気がします。音響についても小品ということもあって派手さはありませんが、サウンドトラックの広がり感ですとか、ロイの幻覚のシーンなどでそのイメージを増強している印象はあります。
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