沖縄スパイ戦史(HD/U-NEXT)|Fire TV Stickで観た映画のレビュー

沖縄スパイ戦史(HD/U-NEXT)|Fire TV Stickで観た映画のレビュー

No Image 原題
レーベル 東風
制作年度 2018年
上映時間 114分
監督 三上智恵/大矢英代
出演
画面 1.78:1/1.33:1/SDR
音声 DOLBY DIGITAL 2.0ch 日本語
字幕 日本語

あらすじ

太平洋戦争末期の沖縄戦で、世間一般に語られている南部の戦跡以外にも、本島北部で暗躍していた陸軍中野学校出身のスパイを司令官にした沖縄の少年で構成された部隊の存在があった。少年兵たちはアメリカ軍に対して攻撃を仕掛けたり、アメリカ軍を油断させて内部から破壊工作をしたりしていた。ただ、負傷した少年兵に対しては容赦なく身内で抹殺するという非情な面も持っていた。

一方八重山諸島の波照間島にはアメリカ軍の侵攻がなかったにも関わらず、同じく陸軍中野学校出身の山下の手によって島民が強制的に西表島に疎開させられ、マラリアによって多くの島民が死んでいった。

沖縄本島北部では、軍の指示により住民が住民を監視する事態になり、軍に批判的だったり、海外から帰ってきた住民に対してはスパイ容疑をかけて、スパイ容疑をかけられた人は容疑をかけた住民によって殺されていった。

それらの話は過去のことではなく、現在の自衛隊やアメリカ軍の動きとも関係してくる話としてのメッセージを視聴者に伝えてくる。

レビュー

沖縄の実情を伝えるジャーナリスト2人が、太平洋戦争末期の沖縄戦で表に出て来なかった裏の戦争を暴き出し、その凄惨ぶりと軍隊の論理を鋭く追求しているのが、この「沖縄スパイ戦史」です。2018年製作の映画ですが、この映画で描かれた内容は、むしろ2025年の今の方がより鋭く心に刺さってきます。

ドキュメンタリーですが、エピソードはいくつかのパートに分けられています。まずは「護郷隊」と呼ばれる日本軍の陸軍中野学校出身のスパイたちが沖縄の少年を兵隊として組織を作り上げた話です。続いて、アメリカ軍の攻撃が全く無かったのにも関わらず、陸軍中野学校のスパイ、山下の手によって西表島に強制疎開させられ、多くの住民がマラリアによって命を落とした悲劇の過去をもつ波照間島の話です。さらには、日本軍が沖縄の住民を監視し、批判的意見を持つ人や海外帰りの人をスパイと決めつけて惨殺していたという住民分断の話となっています。

この沖縄の悲劇が沖縄だけに当てはまるものではなく、もし太平洋戦争で日本軍が本土決戦を決めていたら、日本本土の住民も沖縄の人と同じ運命を辿っていただろうという、衝撃の見解が最後の方で提示されています。これらのパートを視聴することで、現在の日本政府が南西諸島で展開している対中国における軍事行動が、太平洋戦争の時の過ちを全く学ぶことがなく進行しているという事実を突き付けられますので、すっきりしないラストを迎えることになります。

この映画は、「戦雲」などで知られる三上智恵さんと、大矢英代さんの二人が監督を務めていますが、沖縄本島の「護郷隊」の話と、沖縄の住民を監視しスパイを炙り出すという話は三上智恵さんが、波照間島における陸軍中野学校出身の山下による強制疎開の話と八重山の話を、波照間島に住み込んだこともある大矢英代さんが担当しています。この二人の話はそれぞれ別の意味合いを持っていますが、別々の話を陸軍中野学校という一つのキーワードでまとめたために、太平洋戦争における沖縄戦では語られることのなかった裏の戦争の話を表に浮かび上がらせることになり、いかに軍隊が一般住民を守らないかが明確になっています。

「護郷隊」について言えば、表に出てこない沖縄戦の中で、第三十二軍司令部玉砕後もアメリカ軍の情報を本土に伝えるために沖縄出身の少年兵を使い、ゲリラ作戦を敢行していたという事実は、重たい話です。少年であることを利用して意図的にアメリカ軍に投降させ、捕虜収容所の中からゲリラ戦を実施するという策略は理解し難いものでしたし、その少年兵ですら日本軍にとって足手纏いになれば容赦なく処刑するという話はショックを受けます。

波照間島の強制疎開の話も僕はこれまで知らなくて、この映画で詳細を初めて知ったのですが、ここにも陸軍中野学校のスパイである山下の暗躍があったことが生存者の証言から明らかにされますので、暗然たる想いを抱きます。波照間島島民の強制疎開の話も日本軍が勝手に決めた論理に沿って住民を好きなように使うという思想が前面に出ていますので、軍隊という組織の酷さがよくわかります。

沖縄本島の住民の監視とスパイと決めつけられた人に対する虐殺の話は、監視自体を軍が行うというより住民相互に行わせて、住民たちの絆を分断させているという部分で、ある種の恐怖感を感じさせます。生存者の証言も、話せない部分が多分にあるという事実は、恐怖感を増大させています。それは、秘密の部分を表に出すと、住民の分断が決定的になってしまうからです。

話は裏の沖縄戦の振り返りだけではなく、今の日本政府が推進する南西諸島に対する防衛力増大に対する批判も織り込められていますが、裏の沖縄戦の話を最後まで見ていくと、その批判が納得いく形に落とし込まれています。2018年製作の映画ですので2025年現在の南西諸島の状況とは異なる部分はありますが、現在はさらに悪化している状況であり、もどかしい思いを抱きます。沖縄という地域だけの問題ではなく、日本本土各地でも同じ問題を抱えていますので、「自分には関係ない」とは言えないのです。アメリカの対中国政策が酷くなる状況下では、日本全土がリスクを背負っています。

映像はHD/SDRで収録されています。ドキュメンタリー映画ですので、生存者へのインタビューや風景描写はクオリティの高い映像になっていますが、アメリカ軍が沖縄戦の時に撮影したフィルムの映像は当然荒いです。しかし、当時の戦場のリアルさがそのフィルムからは滲み出ていて、圧倒的です。「護郷隊」に所属していた少年兵たちの死体も容赦なく画面に現れますので、精神的にはきつい映像も多いです。

音響はDOLBY DIGITAL 2.0chのステレオ音声です。ドキュメンタリーという構造上、三上智恵さんや大矢英代さんのナレーションを軸に生存者へのインタビューをメインで語られていくことになるため、サラウンドという観点では2.0chステレオでも十分ですが、AVアンプのサラウンドモードをDOLBY SURROUNDにして鑑賞しますと、生存者へのインタビューや風景描写のシーンでは背景の騒音がイマーシヴにサラウンドしますので、予想以上にリアルなサウンドになっています。

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