パワー・オブ・ザ・ドッグ(DOLBY VISION/Netflix)

あらすじ

　1925年のモンタナ、牧場主のフィルとその弟ジョージは、牧場主になって25年が経過していた。ある日、宿屋の食堂でカウボーイたちの食事を手配している最中、フィルが些細なことで怒り出し、食事会は中止になった。そのために食事の準備をしていた宿屋の女主人ローズは泣いてしまう。その姿を見たジョージは、彼女を慰め、最終的にジョージはローズと結婚することになる。ローズは死に別れた夫がいて、息子であるピーターと二人で暮らしていたが、ジョージと結婚したことで、ピーターは大学に進むことになる。フィルはジョージやローズに対して冷たい態度をとり、二人とピーターを合わせた3人をいじめる。しかし、ピーターには思うところがあったらしく、次第にピーターに牧場主の態度を教えることになる。ローズはフィルのいじめに耐えきれなくなり、次第にアルコール中毒に陥っていく。また、ピーターは大学で学んだ解剖学を牧場で実験することになる。そんなある日、ピーターはフィルの隠れ家を見つけ、彼の秘密を知ってしまう。

レビュー

　Netflixオリジナル作品で、トーマス・サヴェージ原作の同名小説を映画化した作品が、この「パワー・オブ・ザ・ドッグ」です。「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオンが監督したことで好意的な評価を得ていて、Rotten Tomatoesの批評家評価は95％、観客評価が61％と批評家の評価が高い作品になっています。Netflixオリジナル映画ではありますが、一部劇場では上映されてもいます。

　この映画は1925年のモンタナを舞台にフィルという粗雑な牧場主とその弟ジョージ、ジョージと結婚することになる宿屋の女主人ローズ、ローズの息子であるピーターとの人間関係を描いたドラマであると同時に、愛の映画であるとも言えます。特に愛に関して言えば、フィルが弟であるジョージ、ローズ、ピーターに対して冷たい態度をとり、いじめ抜くというところに愛情の逆転現象が描かれていると思います。

　フィルのいじめという愛情の裏返しの他に、フィル自身にはどうもホモセクシャルの気があるような気がしてなりません。彼の友人が亡くなった時、フィルを助けるために友人が犠牲になりますが、その時の話を淡々とするフィルには、その時点でホモセクシャルの気持ちが芽生えたのではないかと思います。その愛情をピーターに対してぶつけていくところが、この物語の中心になっているような気がしてなりません。

　一方で、ピーターは母への愛情から、フィルに対してはそんなに愛情は感じていませんが、学校の夏休みでフィルの元にいた時に彼から牧場主の態度というのを教え込まれ、彼に接近していくことになります。ピーターは学校で解剖学の知識を受けていきますが、それがクライマックスで意外な展開で生かされる設定になっています。そのための伏線はいくつかのシーンで描写され、ラストで、そういうことかと納得する設定になっています。

　ジョージと結婚したローズですが、フィルのいじめのために次第に精神不安定になり、ウイスキーをいつも飲んでいてアルコール中毒になっていく様は、不憫な気がします。それを見ていたピーターがフィルに対して思うところもクライマックスの展開に影響していると思います。彼女の存在が、フィルやジョージ、ピーターに影響を与えているところが多々あると思います。

　映像はモンタナの大自然を雄大に撮影していて、それが人間の生の営みに対して広大感を表しているように思います。自然の雄大さに対してちっぽけな人間の愛憎劇という対比が、この映画のポイントの一つではないかと思います。1925年のモンタナという設定ですので、まだ文明に侵されていない昔ながらの世界が広がっていて、それが映画ならではのスケール感を表しているように思います。

　映像は4K/DOLBY VISIONで収録されています。マスターデータが4Kで保存されているため、映像はネイティヴ4Kでの収録になっています。モンタナの大自然を写した映像は、映画を見ているというよりはまるで実物の世界をガラス越しに見ているかのようなリアリティがあり、明るい世界と多彩な色彩が魅力を発揮しているところであります。音響はDOLBY ATMOSでミックスされ、環境音中心に高さ方向をも含め、視聴者が映画の世界に入り込んだかのようなサラウンドを提供しています。